Crazy a go go! [CASE:A] (19)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「ただいま、戻りました」

 クラウドがエアリスと屋敷に戻った時、いつもみんなが集まっている食堂にはザックスの姿しかなかった。

「お帰りなさい。楽しまれましたか?」
「ええ、とっても。クラウドってば、ほんと可愛くて、一緒に歩いてると楽しくてしょうがないわ」
「とんでもないです。でも、よかったです」

 クラウドは買い物してきた荷物を一度テーブルに置いてから、辺りを見渡した。

「…あ、あの、セフィロス様は…?」
「ああ、だんな様だったら、散歩に行くとか言って出て行ってしまったんだけどな」

 ザックスは肩をすくめて、困ったような顔をする。

「散歩…? セフィロス様が…?」

 クラウドは嫌な胸騒ぎを覚えて、胸の辺りを掴んだ。

「いつごろ、出て行かれたのでしょう?」
「あー、そうだな、もう、かれこれ二時間前になるか…。おかしいな…」

 ザックスが時計を確認して、首を傾げている。
 クラウドはエアリスに慌てて近寄った。

「…エアリスさん…、薬草とかの知識は?」
「人並み以上にはあるけど、どうかした?」
「今すぐ、鎮痛作用のあるものと、睡眠作用のあるものを集めていただけますか?」
「クラウド…、何に気づいたの…?」
「いいえ。何も気づいてません。嫌な予感で終わることを望んでいます。確か庭の一角に薬草を色々栽培している場所があるとのことですから」
「…わかったわ、庭を借りるわよ」

 エアリスが庭に出て行ったのを確認してから、クラウドは食卓の周りをまわり、テーブルの上にあるものを一つ一つ手に取った。

「クラウド?」
「すいません、ザックスさん、なるべく綺麗な布を集めておいてください」
「一体、何が起きると言うんだ?」
「何も起きないと思っています。いいえ、思いたいんです」

 手に握っていた果物ナイフをテーブルの上に戻すと、クラウドは椅子に座った。
 落ち着いて座っていられるような状態でもなかったけれど、クラウドはただ座って、セフィロスが帰ってくるのを待った。

「クラウド、布はここに置いておくから」

 両手いっぱいに布を抱えたザックスが戻ってきて、テーブルに布を積み上げていく。
 クラウドはその様子を見ながら、余計に不安が募ってきて、テーブルの上で手を組んだ。組んだ手を額の前に持ってきて、祈るようなポーズをした。

「クラウド、これだけあれば、大丈夫だと思う」

 エアリスが庭から戻ってきたので、鎮痛作用がある液体と、睡眠作業がある液体を作ってもらうようにお願いした。

「液体の方がいいの?」
「布にしみこませていただこうかと、思って」
「わかった。じゃあ、この布を浸しておくね」

 エアリスがキッチンの方へ向かうのを見送ってから、クラウドはまた椅子に座って、セフィロスが帰ってくるのをじっと待った。
 エアリスも液体に浸された布を持って食堂に戻ってきていて、クラウドの隣に座っている。

「遅いすぎるな、いくら何でも…」

 部屋の中をうろうろと歩き回っていたザックスが扉の方に足を踏み出した時だった。
 バタン、と大きな音がして、食堂の扉が開いた。

「セフィロス様!」

 クラウドは反射的に椅子から立ち上がって、セフィロスの傍に駆け寄った。

「…ああ、クラウドは…、無事だったか……」
「セフィロス様、何があったんですか!」
「…俺のことは…気にしなくて…いい…」

 セフィロスがその場に崩れ落ちていくのをクラウドは抱きとめようとしたが、セフィロスが腕で制したため、近づききれなかった。
 セフィロスはそのまま崩れて膝をついた後、ぐるんと体を回して、仰向けに寝転がった。脇腹を抑えるセフィロスの右手が真っ赤に染まっている。
 クラウドは傍らにしゃがみ込んで、セフィロスの右手を掴んだ。しかし、セフィロスはその手を払って、脇腹を隠すように押さえ直した。

「セフィロス様、セフィロス様!」
「俺は大丈夫だ…。ちょっと、切られた程度だ。…だから、お前は…気にしなくていい…。……クラ…ウド?」

 クラウドは奥歯を噛みしめて立ち上がると、食卓の方へと走った。

「…ザックス、…クラウドを……止めろ!」

 セフィロスの声が部屋に響く。

「クラウド、ちょっと待て、早まるな!」
「いいえ、私しかできないことなのです」

 クラウドは食卓にあった果物ナイフを握ると、一気に左手の掌を切りつけた。果物ナイフを置き、右手にはエアリスが作ってくれた布を掴む。

「クラウド!」
「ザックスさん、後はお願いします」

 セフィロスの元へ駆け戻ると、クラウドはセフィロスの右手を脇腹からどけさせた。どくどくと血液が溢れ出しているのがわかる。ちょっと切られた程度でないのは、明らかだった。

「や、やめろ、クラウド…。その力を俺に使ったら、お前は……」
「…もう、何も話さないでください…」
「クラウド…、俺は…」
「相当痛いのでしょう? さあ、目を閉じてください。すぐに痛みも消えます」

 クラウドは睡眠作用のある方の布をセフィロスの額に当てた。セフィロスは、閉じようとする瞼をどうにか開けていようと、何度も目を見開いている。

「…クラ…ウド…、ダメだ、やめろ……」

 クラウドは傷つけた左手をセフィロスの傷口に当てた。クラウドの手を振り払おうとしているセフィロスの手を逆の手で掴んで阻止し、しばらく左手が傷口から離れないようにした。

「…セフィロス様…、好きです…、これからもずっと…」

 まだ、何かを言おうとしているセフィロスがこれ以上話すことをしないように、クラウドは唇を塞いだ。


前編 END
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