Crazy a go go! [CASE:A] (5)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「だんな様! 私にはさっぱりわかりませんよ!」

 ザックスががなり立ててくるのを、セフィロスは聞き流した。
 エアリスとクラウドが立ち去った後、セフィロスは自室に戻り、ソファーに沈むように腰を下ろした。
 追いかけてきたザックスにまずワインを持ってくるように指示し、グラスに注がれたワインを立て続けに二杯空けた後、頬杖をついて、窓の外を眺めている。
 その様子に痺れを切らしたのか、ザックスが喚き始めたのだった。

「…聞いてますか! だんな様! 近づいてるのは何なんですか!」
「…そんなに大きな声を出さなくても聞こえている。耳は遠くない」
「だったら、ちゃんと答えて下さいよ!」

 セフィロスはザックスの顔を見上げた。言わないと今にも噛み付いてきそうなザックスをどうやってなだめようかと、思案するべく、また、窓の外に視線を移した。

「だんな様!」
「そうだ、エアリスはザックスが気に入ったようだぞ」
「はぁ、そうですか……って、あれ、あれれ?」

 ザックスは自分の耳をバンバン叩いている。聞き間違ったとでも思っているようだ。

「よかったな。後はザックスのアプローチ次第だな」
「い、いや、あの、ちょっと待ってください! じょ、冗談ですよね?」
「冗談で言うか、こんなこと。妹の将来にかかわることだぞ」
「……冗談じゃない…とすると……」
「そういうことだ。ザックスを『弟』と呼ぶ日が来るのかもな」

 セフィロスがそう言って笑うと、ザックスがうひゃーと叫んで、その場でくるくる回りだした。これほど気持ちがわかりやすい人間も珍しい、とセフィロスは心の中で笑い、また、うらやましく思った。
 自分の想いをどこまで正直に表に出してもいいのだろうか。
 ソファーに横になって、目を閉じる。
 エアリスは言った。
 いつまでも繋いでおくことはできないのだ、と。
 セフィロスにもわかっていたことだった。
 ただ、その時間が一分でも一秒でも長ければいい、と願っていた。

「ああっ! もう、だんな様!」
「…何だ、一体…」

 体を起こして、ザックスと向かいあう。ザックスは仁王立ちになっていて、セフィロスを見下ろしていた。

「はぐらかそうとしましたね? 肝心なことを聞いてませんよ、私は」
「…知らない方がいいこともあるぞ?」
「ご冗談を。執事として、知らないことがあるなど許されません。ここに執事として雇っていただいた時点で、すべて覚悟し、承知しております」

 ザックスは先ほどまでの嬉しそうな照れたような表情をすっかり消してしまっていた。瞳に浮かぶ決意の色に、セフィロスはわかった、と両手を上げた。

「…クラウドは…ここからいなくなる……」
「…いなく…なる……?」
「そうだ。いなくなる。きっと、どうしようもないことだ…」
「おっしゃってることがよくわかりません。手放すということですか?」

 セフィロスは無言で頭を振った。

「だ…、だったら、いなくなるはずないでしょう!」
「…そうだな、ザックスの言うとおりだな」
「だんな様…、一体、何が起きているんですか?」
「俺のこの手には、たった一人の人間を引き留めておく力もないらしい…」
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