Crazy a go go! [CASE:A] (16)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「お、おい!」

 少年の左手からは血がしたたり落ちている。

「すいません、この子を仰向けにして、押さえていてもらえますか?」
「え? それより、お前のその手が…」
「早く! 時間がありません!」

 セフィロスは言われるがまま、犬を受け取って、ベンチに仰向けにして押さえつけた。犬の腹部には深い切り傷があった。

「ああ、痛かったな。もう大丈夫だからな」

 少年は血の流れる左手を、犬の傷口に当てた。そして、血を塗りつけるように、左手で撫でている。
 セフィロスはその様子を黙ったまま、見つめていた。

「…これで大丈夫かな…」

 少年がそう言って犬を抱えた時だった。
 ダンダン、ダンダン、と扉を叩く音が聞こえた。

「…もう、追いつかれたか…。貴方は早く逃げてください」

 少年はくっと歯をくいしばって、扉を見つめた。凛としたその表情の中に今にも壊れそうな儚いものを感じて、セフィロスは少年の腕を掴んだ。

「シスターとは顔なじみか?」
「…え? あ、はい。お世話になっています…」
「なら、早くシスターのもとへ行け。ここは何とかする」
「だ、だめです! 貴方が大変なことになります!」
「大丈夫だ、俺は単なる通りすがりだ。いいから、早く。時間がないのだろう?」
「…す、すみません…」

 少年はお辞儀をすると奥にある扉に駆けていった。扉の向こうへと少年が姿を隠したのを確認してから、セフィロスは教会の入口へと向かった。
 観音開きの扉が開かないようにと縛っていた袖をほどき、セフィロスは扉を開いた。
 タキシードを纏った男が二人、勢いよく中へと飛び込んできた。バタバタと教会の中を走り回った挙句、ベンチをなぎ倒していく。
 セフィロスはその光景を静かに見つめていた。

「おい!」

 お呼びがかかったので、セフィロスは何か、と返答した。

「ここに金髪の少年が来なかったか?」
「さぁ?」
「本当のことを言った方が身のためだぞ」
「聞き飽きた脅し文句をどうも。そこまでベンチを倒して出てこないんだから、いないでしょう? それに、俺もたまたま雨宿りにここに来ただけですからね。元々誰もいなかった」
「…本当だろうな?」
「嘘を言っても、何の得にもならない。誰かお探しなら早く探した方がよいのでは? こうしている間にも逃げてるでしょう?」
「…おい、行くぞ!」

 一人の男がもう一人の男を急かして、教会から出て行った。
 セフィロスは教会の扉をきっちり閉じて、簡単に開くことがないように、傍にあった大きな木の板を取っ手に差し込んだ。元々これが鍵代わりだったのだろう。
 倒されたベンチを戻しながら、奥へと進み、隠し扉の前に立った。二回ノックをしてみると、少年がちらっと顔を見せた。

「…あの…?」
「もう大丈夫だろう。表の扉は開かないようにしてある。安心していい」

 少年はちらちらっと教会の中を見渡すと、扉を開けて、教会の方に現れた。腕に抱かれた子犬はすっかり元気になっているようだった。

「その犬は…」
「…もう、直りました。そうだ、ナイフ……」

 少年は犬を足元に下ろすと、ポケットを探り始めた。犬は深い傷を負ってたとは思えないぐらいに、走り回っている。

「あの、これ…」

 少年はナイフを右手に乗せて、差し出してきた。セフィロスはそのナイフを受け取らず、少年の左手を掴んだ。そして、無理やり掌を開かせる。

「…あ、あの…!」
「…やっぱりか。傷跡はないな」
「…っ!」

 少年は慌てて手を振りほどくと、セフィロスに背を向けて、また、扉の向こうへと姿を消そうとした。
 その腕を掴んで、セフィロスは自分の方に向かせた。

「…それで追われてるのか?」
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