Crazy a go go! [CASE:A] (15)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「セフィロス様! お伺いしたいことがたくさんあります」

 クラウドとエアリスが出かけて行った後、セフィロスは食堂のテーブルについた。見計らったように、ザックスに声をかけられた。
 しばらく考えた末、セフィロスは立ち上がった。

「…先にワインと軽く食べられるものを。用意が出来たら、俺の部屋に運んでくれ。そこで話をしよう」
「…わかりました。では、準備してまいります」

 ザックスが踵を返してから、セフィロスは自分の部屋へと向かった。
 扉を開いた瞬間、クラウドの香りが鼻を掠めた。いきなり、昨夜のことやそれ以前のことなどがフラッシュバックされて、頭が割れるように痛くなる。ソファーに倒れ込んで、大きく息をしてみるが、空気を吸い込めない。
 クラウドに何もなければいい。いや、クラウドはエアリスと一緒だから、絶対大丈夫だ。とすれば、この感覚は俺への警告か。
 セフィロスはなんとか上向けになって、大きく深呼吸を繰り返した。
 クラウドさえいればいい。他に何一つ望みはしないというのに。この思いさえ届かないというのだろうか。
 天井に向かって伸ばした両手の平を眺めて、大きくため息をつくしかできなかった。



「…何から話せばいい?」

 セフィロスは赤ワインの注がれたグラスを持ち上げてから、ザックスに尋ねた。

「順序は問いません。全てお話していただければ」
「では、順を追って話すことにしようか。クラウドと初めて会ったところからだな…」

 ワインを一口飲んで、記憶を巻き戻すように目を閉じた。

「あれは…、そう、確か、雨が降ってたな…」

 セフィロスは用があって郊外へと出かけていた。その帰り道、急に雨に降られて、近くにあった小さな教会へと飛び込んだのだ。そこにはシスターが一人いて、静かに祈りを捧げていた。
 邪魔をしないようにと、セフィロスは一番後ろの椅子に腰を下ろして、屋根に当たる雨音を聞いていた。規則正しく刻む雨音にいつしか眠りの淵に誘われて、意識をなくしてしまいそうになってところで、けたたましい音が響いた。
 すぐに覚醒したセフィロスは扉の方を振り返り、状況を確認した。扉の前には一人の少年。腕には子犬が抱えられている。

「シスター、おさわがせして申し訳ありません。ここに一人にしていただけますか?」

 少年の言葉にシスターは頷くと、教会の奥にある小さな扉から出て行った。扉は隠し扉になっているらしく、こちらからはもう扉の形はわからない。
 少年は小さく頷くと、教会の端に足早に移動し、犬を椅子の上に下ろした。そして、床に膝を立てて座り、犬の頭を撫でている。

「おい」

 セフィロスは少年に近づいて声をかけてみた。少年は驚いたように肩を震わせた後、顔を上げた。
 少年の顔を見たセフィロスは息を呑んだ。少年と思ったのが間違いだったのかと思うほどの顔立ちだった。磁器を思わせるようなつるりとした肌で、輪郭は少し丸みを帯びていた。蒼い丸い瞳と少し上気した頬が白い肌に映えていた。

「…あ、あの、何も聞かずに…一人にしていただけますか?」
「そうしてやりたいのは、やまやまだが、外は雨なんだ」
「…そう…でしたね…」

 少年は立ち上がると、教会の中を見渡すようにその場で一回りした。その後、扉の前へと向かい、いきなり自分のカッターシャツの袖を引きちぎった。引きちぎった両袖を繋ぎ合わせ、開かないようにするためか、観音開きの扉の取っ手同士を袖で強く結んだ。

「では、ここでのことは一切口外しないと約束していただけますか?」

 目の前に立った少年の言葉に、セフィロスは簡単に同意しなかった。

「約束しないとどうなる?」
「貴方様に危害が及ぶかも知れません…」
「お前が及ぼすのか?」
「…そう…ですね…」
「じゃあ、今すぐやればいい」

 セフィロスは少年の腕を掴んだ。今にも折れそうな細さに、思わず手を離してしまった。
 少年は身を翻すと、犬の元に戻り、もうちょっとの辛抱だぞ、と声をかけている。

「おい、その犬は…」
「…時間がありません、約束して下さい!」
「よくわからんが、いいだろう」

 少年の気迫に押されて、セフィロスは頷いた。うん、と言わざるを得ないような雰囲気だったのだ。
 少年はほっとしたように息を吐き出すと、ズボンのポケットをまさぐり始めた。

「…ああ、さっき、落としたのか…。ないと困るんだけどな…」
「何か必要なのか?」
「ナイフをお持ちですか?」
「ナイフ?」

 この状況でナイフなどどうするつもりなのかはわからなかったが、セフィロスは上着のポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。先ほど、購入したばかりのものだ。

「…これでよければ」
「これで、この子も助かります」

 少年は折り畳みのナイフの刃をつまみだすと、右手でナイフの柄を握った。そして、躊躇いなく左手で刃を握りしめる。

「その犬が……、って……ま、待て!」

 セフィロスの言葉は届かなかったのか、少年は右手を大きくスライドさせた。
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