Crazy a go go! [CASE:A] (10)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「…失礼します…」

 クラウドは重い扉をそっと開いた。

「…クラウド…」
「…セフィロス様、お呼び…でしょうか…?」

 扉を後ろ手に閉めて、扉の前で小さく声を出した。
 ソファーから立ち上がったセフィロスは大股で近寄ってくると、クラウドの両肩を掴み、そのまま扉に押し付けた。
 ガタンと音がして、クラウドは身を竦める。

「セ、セフィロス様…!」
「…俺は……」
「…っ!」

 いきなり唇を塞がれて、クラウドは奥歯を噛みしめる暇もなく、セフィロスの舌を受け入れた。肉厚の舌が口中を蠢き、上あごをなぞられると、体を揺らしてしまう。全身が溶けていくような感覚から逃れようと、セフィロスの背中に腕を回し、ぎゅっと上着を握りしめる。
 セフィロスと口づけを交わしたのは数えきれないほどだ。軽いキスから、深く深く蕩けてしまいそうな熱いキスまで、幾度となく求められ、求めてきたものだ。
 だけど、これで、今、この瞬間で最後になるかもしれない。
 そう思ってしまったら、クラウドはこれ以上、キスを受け止めていられなくなった。
 上着を掴んでいた手を離し、セフィロスの腕を掴んで、めいっぱいの抵抗をした。

「…クラウド…!」

 唇を解放したセフィロスが名前を叫ぶ。クラウドはそのセフィロスの顔を見ることが出来ず、その場に崩れ落ちた。
 ここで泣いてはいけない、心配させてはいけない。
 そう思うのに、涙があふれ出て、幾筋も頬を伝っている。

「…セフィ…ロス様……、もう……、これで……」
「…クラウド、お前は何を考えている?」
「…ご、ごめん…なさい……、私は……」
「どうして、謝るんだ、お前が!」

 セフィロスに急に抱きしめられ、クラウドはいやいやをするように頭を振った。これ以上触れていては、離れられなくなる。その日が今にも近づいているのに、このままでは離れられなくなるばかりか、セフィロスにも迷惑をかけてしまう。
 今、セフィロスの体温を感じてはいけない。
 クラウドはセフィロスの腕から逃げようとした。しかし、セフィロスはそれを許さなかった。

「…クラウド! 俺は絶対お前を離さない!」
「……お願い…です……、どうか…もう…、時間が…ないのです…」
「時間があろうがなかろうが、そんなもの、俺の知ったことではない」

 クラウドはセフィロスにそのまま床の上に押し倒された。毛足の長い絨毯のおかげで、頭をぶつけることはなかったが、しっかりと組み敷かれてしまったせいで、逃れることも抵抗することもできなかった。

「…俺はこの先もずっとこうやってお前を抱くつもりだ。誰が何を言おうと、どうしようとも」

 首筋に強く吸い付かれて、クラウドは声を漏らしそうになったが、飲み込んだ。ここで声を出してしまったら、流されてしまう。そうなってしまったら、もう、本当に逃れられなくなる。縋ってしまう。そんな危機感がクラウドに抵抗を強いるのだった。

「クラウド、俺は大丈夫だ、何があってもお前の傍にいる」
「…い、いいえ…、私に関わっては…、…ダメ…です、本当に…」
「そこまで言うなら、この俺から逃げてみろ」

 セフィロスはクラウドの身体を抱え起こすと、そのまま抱き上げ、ベッドへと投げ込んだ。すぐさま、胸元を飾るネクタイをほどく。

「セフィロス様!」

 クラウドの声は無視され、セフィロスによってクラウドの手首とベッドの柱はネクタイ一本できつく縛られた。
 クラウドは力いっぱい手首を動かしてみたが、動かせば動かすほど、ネクタイがきつく締め付けてくる。

「…どう…して……?」
「お前を手放さないためにはこうするしかないだろう? 誰の目にも晒さず、ここで俺といればいい」
「…そ、そんなことしたら、セフィロス様が! セフィロス様もわかっていらっしゃるんでしょう? 私に関わることがどんなことか…、セフィ……!」

 クラウドの唇にセフィロスの人差し指が触れて、クラウドは言葉を繋げなくなった。
 セフィロスの表情はいつもより穏やかで、クラウドの胸が痛んだ。

「…わかってるさ。十分わかってる。クラウドが心配してくれてるのもわかってる。もし、どんなことになっても、最後の最後まで俺はクラウドと一緒にいたい、それだけだ」
「…セフィロス様、私は嫌なのです!」
「嫌…?」
「このまま穏やかには過ごしていけるはずがありません。セフィロス様が傷ついたり、酷い目に会うのが嫌なのです。私が傍にいるとそれは避けられません!」
「何だ、そんなこと。お前を手に入れるための代償なら、仕方ないだろう?」
「そんなこと、で済ませられることではないのです。わかってください、もう……私なんか…のために…」

 セフィロスの顔がにじんでいくのはわかっていたが、涙を止められなかった。泣いたところで、もう、セフィロスを止めることなどできないのだと、気づいていた。
 それでも、クラウドはセフィロスを思いとどまらせたかった。

「…ちゃんと…、聞いてください…。好きな人を傷つけるわけにはいかないのです…」

 セフィロスはふっと笑うと、テーブルの上に置いてあった小さなナイフをクラウドの手に握らせた。普段はワインの封を切るためのものだ。

「では、クラウド、俺を刺せるか?」
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