Crazy a go go! [CASE:A] (6)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「もし、見えてるとしたら、クラウドはどうする?」

 エアリスが笑って問いかけてくるので、クラウドも笑顔で返した。

「どうもしません。私は私の思いで行動するだけです。その結果が悪くならなければいい、それだけです」
「悪いっていうのは、誰にとって?」
「もちろん、セフィロス様にとって」

 エアリスは「あ、そうか、そうなんだ」と一人納得した後、クラウドに抱きついてきた。いきなりのことで、クラウドは少しよろめいたが、踏ん張ってエアリスを抱きとめる。しばらくエアリスは黙ったままじっとしていた。
 エアリスが何を考えているのかはわからなかった。
 ただクラウドは次第に心が温かくなり、不安とか嫌な思いが少しずつ薄れていくのを感じていた。この人ともう少しでも早く出会えていたら、何か変わっていたかもしれない。そう一瞬思ったクラウドは心の中でその思いを否定した。
 この人は見ることしかできないのだ。
 変えられないからこそ「来なければいいと思っていた」という言葉がセフィロスの口から出たのだろう。
 クラウドは、天井を仰いだ。

「あー、もう、セフィロスにはもったいない!」

 エアリスの声でクラウドは天井に向いていた視線を胸元あたりに落としてから、首を横に振った。

「い、いえ、もったいないなんて…」
「本当のこと。セフィロスはどうすればいいか決められないんだもの。クラウドのように思いを貫けないでいる」
「…それは、きっと違います」

 クラウドはエアリスに椅子を勧めてから、丸いテーブルを挟んで向かい側に座った。クラウドの位置からは窓の外が見えて、噴水の周りに色とりどりの花々が太陽のライトを浴びて美しさを競っていた。緑に光る芝生の上を嬉しそうに走り回っているエリザベスも見えた。
 こんな穏やかな景色をいつまでも眺めていられるとは思っていなかったけれど、幕引きは案外早いのだと、クラウドは自分の甘さを思い知った。

「違う?」

 エアリスの声にクラウドは視線を庭から目の前の天使のような女性に戻した。

「ええ、違います。即断即決できるのがセフィロス様です。だから、もう、決まっていらっしゃる」
「なら、私にそのことをはっきり言えるはずでしょう?」
「お気を遣っていらっしゃるのだと思います。私をここに連れてきて下さって来た時より、事は大きくなるはずでしょうから。もちろん、私がここに来なければ、こんなことにもなりはしなかったのでしょうけど…」

 クラウドは組んだ自分の手を見つめた。
 あの時、セフィロスの申し出を受けなければ、この屋敷の人々すべてにきっと違う未来が待っていたのだろう。
 幾度となく思っては、消してを繰り返してきた。

「いいえ。あなたがここに来てくれてよかったの。それは絶対。来てくれてなかったら、今頃セフィロスはとんでもないことになってたわよ」
「とんでもないこと?」
「そうよ。だって、あなたがいるから生活してるようなものだもの。あなたに会わなければ間違いなく、生活することを放棄してるわね」

 エアリスは再度、力強く、間違いないわ、と言い切った。納得して、うんうんと頷き、ポニーテールが大きく揺れる。

「それは、私がメイドとしてここにいて、身の回りをお世話させていただいているからであって、別のメイドさんがいらっしゃれば、生活なさることは可能かと…」
「そういうことじゃないのよ。あなたがメイドじゃなくてもいいの。あなたがいることが重要なの」
「…重要…?」
「そう、重要。だって、あなたじゃなければならないのだから、セフィロスにとっては」

 そんなことはない、とクラウドは思う。
 セフィロスのような人間であれば、すぐに女性が寄ってくるだろうし、クラウドより優れた女性などごまんといるはずだからだ。
 なぜ、自分でなければいけないのか、自分は他の人と何が違うのか。自分の何がセフィロスの執着心を煽っているのか。
 セフィロスが口にする自分に対する熱い思いを信じてもいいのか。
 クラウドには何もわからなかったし、判断もできなかった。

「私でなければならないなんてこと、あるのでしょうか?」
「そうよ。あなた以外ではだめ。代わりなどいない。だからこそ、あなたにそんな格好をさせてまで、傍においている」

 クラウドはしばらく自分の着ているメイドの衣装を眺めた後、俯いていた顔を上げた。
 エアリスは何もかもわかったような顔で、ゆっくりと頷いた。

「…ばれてましたか…」
「いいえ、知ってたの。ばれたわけじゃない」
「セフィロス様からお聞きなのですね?」
「ごめんなさい…。昨日、パーティーで偶然セフィロスと会ったときに…」
「いいえ。隠す必要がないのは気が楽ですから大丈夫です。あなただから、とセフィロス様もお話したのでしょう。すべてご存知なのですね?」

 そう、全部、とエアリスは言うと、昨日のパーティーでのことを話し始めた。
BACK