Crazy a go go! [CASE:A] (9)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「ねぇ、お兄様。今日は泊まってもいいわよね?」

 エアリスはすっかり食事も終えたようで、ティーカップを手にしている。
 セフィロスは少し考えたように首をひねったが、いいだろう、と頷いた。

「…好きにするといい。ゲストルームは空いてるはずだが、ザックスの部屋の方が快適かもしれんな」
「だんな様!」

 ザックスが慌てたように席を立ちあがる。

「冗談でもやめてください! とんでもないことです! ゲストルームをご用意いたします。しばらくお待ちくださいますか?」
「ええ、でも、どこでも大丈夫」

 エアリスの笑顔を受け止めて、ザックスは一瞬顔を赤くすると、わたわたと食堂から出て行こうとした。その足を止めるように、クラウドは声を上げた。

「ザックスさん、ゲストルームでしたら空いております。私が準備いたします」

 クラウドは逃げる口実が見つかったとばかりに、セフィロスの膝の上から飛び降りた。すぐさま、その腕をセフィロスに掴まれ、クラウドはまたも逃げることを許されなかった。

「セフィロス様…」
「ザックスに任せておけ」
「で、でも…」
「ザックス、大丈夫だな?」
「もちろんです、すぐ戻ります」

 ザックスがそう言うものだから、クラウドも手伝いますとも言えずに、そのまま立ち尽くした。

「ねぇ、クラウド」
「は、はいっ」

 エアリスに呼ばれて、近くに立ち寄ろうとしたが、セフィロスはまだ手を掴んだままだ。ただただ、苦しそうな表情でクラウドを見ている。

「いいわよ、そのままで。私、あなたと友達になりたいなぁって」
「…は?」
「あなたと一緒だったら、楽しいと思うの。こんなに可愛い人をお兄様に独り占めにさせるなんて、とんでもないわ!」
「エアリス。悪いがクラウドは俺のものだ」

 セフィロスは傍に立っているクラウドの腰に抱きついてきた。強く抱き寄せられ、クラウドは身動き取れなくなる。

「一日中一緒じゃ、クラウドも困るでしょ。だから、お昼間は私と遊んで、ああ、安心して。ちゃんと夜にはお兄様の元に戻っていただくから」

 にこっと笑顔を見せられても、クラウドは返答しようがない。セフィロスは黙ったままで、身動き一つしない。

「あ、あの、セフィロス様…、私は…」
「…クラウド次第だ」

 ようやく、セフィロスが口を開いた。

「え?」
「クラウドがエアリスが友達でもいいと思うなら、友達になればいい。そこまで俺は束縛はしない。だが、俺のものであることは忘れるな」

 セフィロスは急に席から立ち上がると、自室にいる、とだけ告げて、食堂から出て行ってしまった。

「…はぁ。拗ねてるか」

 エアリスは息を吐き出した。

「ごめんね、クラウド。別に困らせたいわけじゃなかったの。素直な気持ち。もちろん、クラウドが嫌だっていうならしょうがない」
「い、いいえ。私みたいなものでよかったら…」
「わぁ、よかった。第一印象悪かっただろうから、どうなるかな、って」

 エアリスはこの屋敷にいきなりやってきたことを言っているのだろう。確かにクラウドはセフィロスとの仲を疑ったりもしたが、兄妹だということもわかったし、エアリスが気になっているのはどうやらザックスの方であるらしい。
 エアリスは食事中もザックスのことを気にして、そちらばかりちらちらと見ていたのだ。

「…でも、本当に、私なんかで」
「クラウドがいいの。明日はそうだ、お洋服を見に行かない? 素敵なお店があるの!」
「…セフィロス様にお伺いしてみます」
「絶対ね」

 エアリスがぎゅっと手を握ってきたので、クラウドは小さく頷いた。

「お待たせしました、エアリスさん」

 ゲストルームの準備を終えたのか、ザックスが食堂に戻ってきた。その姿を確認するなり、エアリスは駆け足でザックスの傍まで寄って行った。

「そんなにお急ぎにならなくても大丈夫です。転んでしまったら大変ですよ」

 心配そうな表情を浮かべているザックスに近づいて、エアリスは何か耳元で囁いている。
 その途端、ザックスの顔は一気に血が上ったように真っ赤になり、頭から湯気が吹き出しそうな勢いだった。
 二人は楽しそうに食堂を出て行き、クラウドは一人食堂に残された。
 役目を終えた皿やナイフ、フォークを集め、食堂から台所へ運ぶ。よいしょ、と腕まくりをし、クラウドは皿を洗いながら、自分の置かれている立場について考えた。
 屋敷の人々は、みんなよくしてくれているし、友達になりたい、と言ってくれる人まで出てきた。
 しかし、本当は、自分に関わる人を増やしてはいけないのだった、とクラウドは今更のように深く後悔した。
 友達など、信頼できる人など、ましてや、愛する人など作ってはいけなかったのだ、と。
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