Crazy a go go! [CASE:A] (2)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「そうそう、セフィロスは?」
「え?」

 クラウドは身構えるように、手を自分の胸元へ引いた。
 伯爵という称号を持っている主の名前を敬称を付けることなく、呼び捨てに出来るということは、昔からの知り合いで、それでいて顔見知り程度な薄っぺらい関係ではない、ということだろう。
 そういう関係にある女性の一人や二人、いてもおかしくはないけれど、それならば、どうして自分のようなものに執着を見せるのか。
 クラウドの心の中にはもやもやとした疑問が浮かび上がってくる。

「あら、昨日はありがとう」

 ザックスに視線を移した女性は笑顔を見せて、手を握った。
 ザックス自身が気づいているかどうかはわからないけれど、顔が真っ赤になっている。
 つまり、この目の前の女性がザックスが惚れた相手に他ならないということだ。
 ザックスが惚れた相手はもしかしたら、セフィロスのもので、自分がセフィロスのものだと思っていたクラウドは、実は本当にただのメイドでしかないのではないか。
 クラウドの頭をよぎった不安が現実となるのは時間の問題だった。

「セフィロスは寝てる?」
「あ、はい…」
「案内してもらっていいかな?」

 悪意のない笑みにむげに断ることなどできず、クラウドは呆けっぱなしのザックスさんを放っておいて、女性をセフィロス様の寝室まで案内した。



 寝室の扉をノックしても返事はなかった。

「寝てるのね。まあ、いいや。入っちゃうね?」
「え、あ、あの…」

 クラウドが返答する間もなく、女性は大きく扉を開いた。

「一体、何だ、起きてる」

 セフィロスは身支度を終えていて、ベッドの端に腰を下ろしていた。

「…どういう用件だ?」
「理由がいる? ここに来るのに」

 セフィロスは黙って、大きく溜め息をつく。
 この女性はここに来るのに理由がいらない人。
 人と会うのに約束を必要とするセフィロスと約束をすることなく会える人。
 突きつけられる現実から目をそらすように、クラウドはその場から立ち去ろうと、きびすを返した。

「クラウド!」

 セフィロスの声に歩みを止めて振り返ると、セフィロスはおいでおいでをするように、手首をひらひらとさせていた。
 手招きに従って側まで歩み寄ると、いきなり抱きしめられた。

「あ、あの…!」

 女性の目の前で何てことをするんだろう、この人は!

「セフィロス…、それはあてつけかしら?」
「…いい加減、呼び捨てはやめろ。何度も言ってるだろう?」
「…『お兄様』とお呼びすれば満足?」
「お兄様…!?」

 そう叫んだのは、いつの間にかセフィロスの寝室まで来ていたザックスだった。



「血は繋がってないがな」

 セフィロスは寝起きにも関わらず、ワインを飲みながら、ザックスに答えた。
 寝室で立ったまま話をするより、朝食を食べながら落ち着いて話をしようと、クラウドが提案したところ、セフィロスの部屋に集まっていたすべての人が賛同したので、クラウドを含め四人は食堂に移動してきた。

「じゃあ、どうして兄妹ってことになるんです?」

 白パンをほおばりながらザックスが尋ねると、お兄様が間違ってるんですと、ことさら「お兄様」を強調しつつ、女性はニッコリ笑った。
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