Crazy a go go! [CASE:A] (18)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

 少年は大きく首を振って、セフィロスの想いを振り落とした。

「…いいえ。俺は大丈夫です。何が貴方をそう思わせているのか、駆り立てているのかはわかりませんが、俺はそんなに弱くはありません」

 少年はぺこりと頭を下げると、セフィロスに背を向けた。隠し扉を開けようとする少年の手をセフィロスはとっさに掴んだ。
 少年はセフィロスと目を合わせることはせず、足元に視線を落としたままだった。
 セフィロスは大きく息を吐き出した後、少年の肩をしっかりと抑え、自分の方を向かせた。

「では、こうしようではないか。俺の屋敷ではちょうど人手が足りなくてな。俺の元で働いてもらいたい。もちろん、そのままの格好で、先ほどのやつらにばれてしまっても困るので、変装はしてもらうが」
「と、とんでもない! 俺なんかと関わってはいけません! 本当に!」
「もう、いい。お前の言い分はよくわかった。お前が関わるなというのは、俺に何かが起きてはいけない、と心配してくれているのだろう? その心配は無用だ。俺から勝手に巻き込まれているからな。俺の身に何が起ころうとも、お前には関係ないことだ。忠告したのに聞かないからだ、とでも思っていればいい。俺もお前を責める気などはない」

 少年は根負けしたのか、頷いて、わかりました、と小さく言った。

「そこまで俺のためにして下さるというのなら…」
「よし、そうと決まれば、シスターに挨拶だな」
「…あ…、あの……、苦しい……です…」

 セフィロスは思わず少年を抱きしめていた。さきほどのように抵抗するそぶりはなく、むしろ、体を預けてきているようだった。

「ああ、悪い…。そうだ、お前の名前は?」
「…クラウド……です…」
「俺はセフィロスと言う。屋敷の連中は人がいいやつばかりだから、安心するといい」
「…セフィロス…様…」

 クラウドは首を傾けて、何度も名前を呟いている。言い慣れようとしているのか、覚えようとしているのかの判断はつかなかった。

「様はつけなくてもいい。俺が偉い奴だと思ってるようだが、そんな偉い立場にはいない」
「そういうわけにはいきません! お仕えするのですから!」
「…まあ、好きにするといい。とりあえずは、シスターに挨拶をして、衣装を借りないとな」
「衣装?」
「お前にはこれから女性として振る舞ってもらう」
「…じょ、女性……っ!」

 いきなりのことでうろたえるクラウドの手を取って、セフィロスは隠し扉の向こうへと入っていった。



「ということだ。クラウドが今ここにいるのはそういう理由からだ」
「…まとめさせて下さいませ」

 ザックスはそう言うと、黙りこんだ。
 一気に語ったせいで乾いてしまった喉を潤すべく、セフィロスはワインを飲みほした。 口外するな、とクラウドに念を押されてはいたが、ザックスに伝えておけば、クラウドの身に何か起きても、対処できるかもしれない。知っているのと知らないのとでは、対処は大きく異なるだろう。
 セフィロスは天井を仰いで、大きく息を吐き出した。

「あの、だんな様、大まかには理解しました」
「そうか。悪かったな、長い話を聞かせて」

 セフィロスは空になっているザックスのグラスにワインを注いだ。ザックスは会釈をして、ワインのグラスを持ち上げた。

「いえ。驚くこともありましたが、私の中では納得いたしました」
「それなら安心だな。何かあったら、クラウドを頼む」
「な、何をおっしゃってるんですか! クラウドを守れるのはだんな様だけですよ! 他の誰でもなく、だんな様なんですよ!」
「もちろん、そうでありたいと思ってるさ。ただ、何となくそうもいかない気がしてる…」
「だんな様!」

 セフィロスは立ち上がると、上着を羽織った。

「クラウドは俺のものだ。何があっても俺は手放すつもりはない。誰に何を言われても、何をされても、だ。この気持ちは変わらないが、どうしようもないことが起きないとも限らない。だから、その時は、頼んだぞ…」
「だんな様、待ってください! そんなお願い聞けません!」
「頼まなくてもいい日が続けばいいんだがな」

 セフィロスは外出用の帽子を頭に乗せてから、全身をチェックした。散歩程度だから、そこまできっちりすることはないだろう。仮に公爵様など身分の高い方と会ったとしても、軽い挨拶で交わせばいい。

「お出かけでしたら、私も一緒に!」

 セフィロスはザックスがついて来ようとするのを、片手を上げて制した。

「クラウドとエアリスが帰ってきた時、誰もいないと困るだろう? それに俺は散歩するだけで、遠出する気はない」

 ザックスの肩をポンポンと叩いてから、セフィロスは玄関へと向かった。
 玄関の扉を開くと、庭の芝生の青さが目に飛び込んでくる。庭に出ると、柔らかな日差しが降り注いでいて、花も自らの美しさを競うように、色鮮やかに揺れていた。
「こんな穏やかな日が続くと、そう、思ってたんだがな…」
 セフィロスは帽子を目深にかぶって、歩みを進めた。
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