Crazy a go go! [CASE:A] (4)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「クラウド!」

 セフィロスにさらに強く抱きしめられ、クラウドはぎゅっと目を閉じた。そして、奥歯を噛みしめて、口を開かないようにする。口を開けば、今の想いを全部ぶちまけてしまって、ここから一歩も動けなくなってしまいそうだったからだ。

「クラウド、何を考えている? 俺はお前を手放すつもりはない」

 以前からセフィロスにそう言われているクラウドだったが、いずれは、自分から離れなければならない、と覚悟は決めていた。

「…セフィロス様、おわかりのはずでしょう?」

 クラウドが見上げると、セフィロスは目を見開いた。その瞬間、拘束が緩んだので、クラウドは慌ててセフィロスとの距離を空けた。

「俺がわかっているのは…!」
「待って、お兄様!」

 セフィロスの言葉にかぶさるようにエアリスの声が響いた。エアリスもセフィロスと一緒にキッチンまで追いかけていたのだと気づいたクラウドは気恥ずかしくなり、俯いて唇を少し噛んだ。それから、軽く会釈をして、エアリスの横を過ぎ去ろうとした。セフィロスとエアリスにしかわからない話がまた始まるのであれば、邪魔になるに違いないと判断したからだ。

「クラウドも待って」

 エアリスに手首を掴まれて、クラウドは歩みを止めた。

「ごめんなさい。クラウドにあんな言葉を言わせるつもりはなかったの」
「あんな言葉?」

 エアリスはニッコリ笑うと、ちょっと来て、とクラウドの手を引っ張って、歩き始めた。

「あ、あの…」

 足早に進むエアリスの後ろを、クラウドは足がもつれるようになりながらも追いかけた。
 エアリスはクラウドの呼びかけに答えることもせず、ただ、黙々と歩き続ける。
 この屋敷の中をすべて知っているような、そんなエアリスの足取りにクラウドは気持ちが塞ぐ。
 兄妹だということだし、兄の住む屋敷の中を妹が知らないということはないんだろうし、一緒に暮らしていた時期があった可能性もある。
 クラウドの知らない時間が二人には確実にあって、クラウドの知りえないことを、エアリスは知っている。もちろん、セフィロスの幼いころを今更知りたいと思っているわけではない。どうにも埋められない時間の差がただクラウドには辛かったのだ。

「…私もよく知らないよ、セフィロスのこと」
「は?」
「今まで一緒に住んだことないから」
「…え? あ、あの…?」
「…クラウドの部屋はこの辺?」
「こっちの部屋ですけど…」

 クラウドは掴まれていない方の手で、扉を指差した。エアリスは笑顔を見せると、クラウドが示した扉を開いて、中に入っていった。手を掴まれているクラウドも当然ながら、一緒に入る羽目になる。

「あ、あの…」
「ああ、扉、閉めるね」

 エアリスはクラウドの横を通り過ぎ、部屋の外の様子を伺ってから、扉を閉めた。丁寧に鍵まで閉めている。

「さて、これでゆっくりお話しできる」
「お話…ですか…?」
「そうねぇ、でも、私が話すより、まず、クラウドが聞きたいことがあるよね?」
「…聞きたいこと…」

 確かに、聞きたいことはいくつかあった。まず、エアリスがセフィロスのことをよく知らない、と言い出したのは、クラウドの心の中を読むことが出来たからではないかということ。偶然としてもタイミングが良すぎる。そして、エアリスとセフィロスが二人で話をした後、セフィロスが伝えてきたことについて。セフィロスしか知りえない事実をエアリスは知っていたということになるのではないか。セフィロスがエアリスに事の次第を伝えているのか、そうでなければ、やはり、人の心の中を読めてしまうのか。
 そんなことを考えながら、次の言葉を探しているクラウドに聞こえてきたのは、ごめんね、という言葉だった。

「エアリスさん?」
「意識するとね、読めちゃうというか、何となくわかっちゃうの。近くにいる人の考えてることや思ってることが。今回はクラウドのことを意識しちゃった」
「…そういうことですか。だから、セフィロス様のことは知らない、と…」
「そう、全然知らない。会うのは年に数えるほど。住んでる屋敷の場所は知ってたから、立ち寄ってみたの」
「このように朝早くから? 何か急ぎの御用でもあったのでしょう?」
「…隠しても仕方ないか。セフィロスには全部伝えてあるよ。クラウドが聞きたいなら、全部話す。覚悟はできてる?」

 エアリスの顔が穏やかさを失って、急に険しくなった。その顔をしっかり見返して、クラウドは頷いた。
 近づいているのだろうと、薄々わかってはいた。
 セフィロスが言ったように、来なければいいと思っていたけれど、逃げられそうもない。
 ならば、覚悟を決めておくしかない。

「…一つ、聞いても…?」
「何?」
「エアリスさんには、見えているんでしょうか?」
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