Crazy a go go! [CASE:A] (3)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「エアリス」

 セフィロスがたしなめるように言ったので、クラウドとザックスはようやくこの女性の名前をようやく知ることができた。
 エアリスは、ああ、と両手を合わせてから、ごめんなさい、と言った。

「自己紹介がまだでした。私、エアリス。お兄様とは血が繋がってないわけじゃないんです」
「血が繋がってないわけではない。薄く繋がってる程度だ」
「そう、薄くです。だから、似てないでしょ? 私、こんなに性格悪くないですし」
「よかったですねぇ、似なくて…」

 ザックスが安心したように呟くと、セフィロスは悪かったな、と毒づいて、一気にグラスのワインを飲みほした。
 クラウドは慌ててワインボトルを手にし、セフィロスの傍に近づく。グラスに注ごうとボトルを傾けたところで、セフィロスが軽く手を挙げた。

「セフィロス様…?」
「ボトルを置いておいてくれ。自分で注ぐから、俺のことは気にしなくていい」
「でも…」

 クラウドのこの屋敷での立場はメイドであるから、屋敷の主で、伯爵の地位を持つセフィロスの世話をするのは当然のことだと思っているし、しなければならないはずだ。
 セフィロスは自分のことは大概何でもこなしてしまい、クラウドがお世話をするようなことはほとんどない。クラウドの手を煩わせないようにとのセフィロスの優しさであることはわかっているが、クラウドとしては、ここにいていいのだろうか、と不安になる。仕事をしないメイドを置いておく意味はない。

「いいわよ。お兄様はあなたをメイドとしては見ていないから」
「…え?」
「ああ、誤解しないで。メイドとして使えないってことじゃないの。メイドとしては合格なの。ただ、もう、メイドとしては扱えないってこと」

 クラウドが首を傾けると、エアリスはふふっ、と軽く笑っただけだった。追及を許さない雰囲気のエアリスに質問などできず、真意を知るセフィロスに視線を向けた。
 セフィロスは軽く咳払いをして、話を一気にすり替えた。

「…エアリス、おしゃべりがすぎる。一体、何の用だったんだ」
「いいえ、何も。久しぶりにお兄様の顔が見たくなったという理由じゃダメかしら?」

 エアリスは柔らかな笑顔を作っていて、クラウドはその笑顔を見つつ、心がほっとするのを感じていた。この人には人を癒す力が備わっているのだと思うと、うらやましくもあった。

「…何を隠している?」
「え?」

 セフィロスの言葉に、クラウドもザックスもエアリスの顔を見た。エアリスは先ほどまでの笑顔を消していて、険しい表情を浮かべていた。

「…お兄様、お伝えした方がよいのかしら?」

 セフィロスはエアリスの顔を見つめたまま、何も言わないでいる。セフィロスとエアリスの間に流れる沈黙が何も言わないでも通じ合えているという証拠なのだ、ということにクラウドは気づき、同時に疎外感に見舞われた。
 その場にいるのが辛くなったクラウドは無言でその場を立ち去ろうとした。
 しかし、セフィロスの横に立っていたため、腕を掴まれ、クラウドの動きは封じられてしまう。

「セフィロス様…」
「どうした?」
「どうもしません。こみいったお話がありそうですから、外した方がよろしいかと」

 その方がよい、とクラウドが勝手に感じただけだ。雰囲気からどうにも楽しい会話ではないということもわかっていた。

「…そう、だな。クラウドは聞かない方がいいかもしれない」

 セフィロスの手から解放されて、クラウドは何も言わずに会釈だけして、その場を離れた。
 キッチンに駆け込んで、大きく呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
 セフィロスとエアリスが兄妹だから、まったく血のつながらない自分よりは分かり合えることも多いのだろうし、そんなことに嫉妬するなど無駄であることもわかる。
 それでも、クラウドの胸には悲しみがこみあげてきた。
 セフィロスにとって自分が誰よりも一番でありたい、と願い、今や一番であると思っていたから余計に辛い。

「クラウド」

 呼ばれた声に振り返ると、セフィロスが立っていた。名前を呼びかけるよりも先に、無言で近寄ってきたセフィロスがいきなり抱きしめてくる。

「どうかなさったのですか?」
「…来なければいいと思っていたが…」

 クラウドは言葉の意味に気づいて、ぎゅっとひっついて、セフィロスの背中に腕を回した。セフィロスの鼓動を感じようとしたのだ。
 少しの間黙っていたが、クラウドは大きく息を吸い込んで、一気に言葉を吐き出した。

「…わかりました。お世話になりました」

 短い言葉であるにもかかわらず、クラウドは声が震えるのを止められなかった。
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