Crazy a go go! [CASE:A] (8)
Crazy a go go! [CASE:A](前編)

「悪い。もう、手の先が冷えてしまってるな」

 クラウドの手は桶から引き上げられ、包むようにセフィロスの両手でぎゅっと握られた。

「…すいません、大丈夫でしたのに」
「なあ、クラウド…」

 セフィロスに急に抱きしめられて、クラウドは息を詰まらせる。

「俺は最後の最後まであがいてはいけないのか? クラウドをずっとこうやって抱きしめていられるように、できることはないのか?」
「…エアリスさんは何とおっしゃってました?」
「エアリス? あいつは…、いや…、何も…」

 きっと、聞いているのだ。
 聞いているからこそ、できることがないのかどうか尋ねてきたのだ。
 クラウドはそのことに気づいたけれど、何も言わずにセフィロスとの距離を空けた。

「クラウド…?」
「セフィロス様はセフィロス様の思った通りに行動してくださいませ。私には何も力がないのです。時間を止める力も戻す力も、もちろん未来を変える力も…」

 軽く頭を下げてから、クラウドは立ち去ろうと踵を返した。数歩進んだところで、呼び止められ、クラウドは振り返った。
 セフィロスはいつも見せないような厳しい顔をしていた。

「…夕食が終わったら、必ず俺の部屋に来るように」
「…承知いたしました」
「必ず、だ」

 クラウドは深くお辞儀をすると、向きを変えて、歩みを進めた。
 庭を通りすぎるところで、ザックスとエリザベスがじゃれあっているのが見えた。そして、その光景をエアリスが楽しそうに眺めている。
 何気ないこんな幸せな日々が続けばいい。
 たとえ、この絵の中に自分がいなくても。
 クラウドはぐっと握り拳を作って、奥歯を噛みしめた。



 夕食はエアリスも交えて、いつもより少し豪勢なものとなった。
 セフィロスはいつもの通りワインを飲みながら、少しチーズやハムをつ0まむ程度で、その分ザックスががっつりと食べている。二人前~三人前程度の量をぺろりとたいらげる。

「いい食べっぷり」

 エアリスに言われて気をよくしたのか、ザックスはさらにパンとスープのお代わりを所望してきた。

「…ザックス、そのうち腹が出てくるぞ」
「まさか。こんなに動いている私がでっぷりとしたおなかになるわけなどありません。だんな様こそ気にした方がよろしいかと。ワインとチーズばかりでは、体のラインが崩れるのも時間の問題。お腹がぷよぷよし始めますと、さすがのクラウドもねぇ」
「失礼な。俺はそれはもう、驚くほどいい身体してるぞ」
「自分で言いますか、それを。酔っぱらいの戯言としておきます」
「思い切り失礼だな、主に向かって」
「苦言を呈しているのですよ。ちょっとは考えてください」

 ザックスはクラウドが差し出したパンとスープの皿を受け取りながら、自分の言葉を正当化した。

「どう思う、クラウドは」
「は?」

 セフィロスにいきなり問いかけられて、クラウドはうろたえて、セフィロスとザックスの顔を交互に見た。
 セフィロスの問いかけが、いい身体発言についてのことなのか、ザックスが言うワインとチーズだけではだめだろうということなのかわからなかったのもある。

「絶対、このままじゃぷよぷよ決定だよな?」
「そうですねぇ、少しは考えていただいた方がよいかもしれませんね」

 ザックスの発言により、身体についてのことじゃないとわかってほっとしたクラウドは、そう答えておいた。
 もちろん、セフィロスの身体がどんなものかということは、クラウドが一番知っている。だからと言って、そんなことをこの場所で公言できるはずもない。

「まあ、いい。そうは言っても、クラウドが一番わかってるはずだ」

 たまたまセフィロスの傍にいたために、クラウドは腕をひっぱられ、セフィロスの膝の上に無理やり座らされてしまった。

「セフィロス様! これでは給仕ができません。お客様もいらっしゃるのに!」
「大丈夫、俺がするから」

 そう言うと、ザックスはすっと席を立って、エアリスと会話を始めた。
 言い訳をつけて何かから逃れようとするときは、絶対誰かに阻止されるのはどうしてなんだろう、とクラウドは不思議に思いセフィロスをちらっと見たが、素知らぬ顔でワインと傾けている。
 この屋敷には何か別の意思が宿っているように思えた。
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