Crazy a go go! [CASE:C] (16)
Crazy a go go! [CASE:C]

「認めた?」

 ザックスさんが驚いた声を出した。
 確かにあの公爵様がそんな証拠もないようなことに対して、自分がやったと素直に認めるなんて、今までのことから考えると、ありえないような話だ。

「ああ、認めた。クラウドと話がしたかったらしい」
「それだけのことで誘拐ですか?」
「それだけのことで、実行にうつしたそうだ。まったく、とんでもない坊ちゃまだ」

 セフィロス様は私の頭を撫でながら、ワインを一気に飲み干した。
 私が注ぐべきであるはずなのに、ザックスさんがさっさと注いでしまうので、私の出番は全くない。セフィロス様に拘束されているので、身動き取れない、といえば取れないのだけれど、ここでボーっと座ってるのも、と思って表情を伺ってみる。

「…気にしなくていい。俺たちが勝手に好きに飲んでるだけだからな。何なら自室に戻っていても構わない」

 とんでもない、と私は首を横に振った。

「ちゃんとお話は最後まで聞きます。でも…」
「大丈夫、そこでそうやってだんな様の相手してるのを仕事だと思えば」

 ザックスさんはそう言いながら、自分でグラスにワインを注ぐと、ぐびーっと一気に飲み干した。
 もし、セフィロス様が私がこうすることが仕事の一貫だと考えていたとしても、私はそんな気持ちで接することなどできない。気持ちを割り切ることなどできはしない。
 セフィロス様の側にいられることが、こんなに嬉しくて幸せで仕方ないのに。
 その証拠にさっきからずっとドキドキが止まらない。

「そうするといい。これは仕事だと思え。もし、仕事だと思い切れずに、気持ちが溢れるようであれば……」

 セフィロス様は私の耳元で小さく呟いてから、ちゅっと、音を鳴らして頬にキスをしてきた。
 『後でちゃんと残さず汲み取ってやる』ってつまりそういうことなのか、と思うと恥ずかしくて顔が赤く染まってしまう。隠すようにセフィロス様に引っ付くと、セフィロス様は何もなかったように、坊ちゃまが言うには、と話を続けた。

「俺とザックスを呼び出しておけば、この屋敷は手薄になるだろう、と。その隙にクラウドを連れ出しておいて、後でゆっくり話をしようと思っていたんだそうだ」
「……手薄って言っても…」
「メンバーにあれだけ都合よく仕事が重なるのもおかしいとは思っていたが……」
「ええっ!? あれも坊ちゃまの仕業ってことですか?」

 そういうことだ、とセフィロス様は大きく息を吐き出した。

「つまり、メンバー全員を屋敷から出て行かせておいて、だんな様と私を自分の屋敷に呼びつけておけば、確かに屋敷にはクラウドしか残らない。それなら、連れ出すのも簡単だと、坊ちゃまは読んだわけですか?」
「多分な。クラウド一人が抵抗したところで連れだせないことはない、そう睨んだんだろう。ただ、予想外のボディーガードがいた」

 エリザベス……。
 私がそう呟くと、セフィロス様はそうだ、と私の頭を軽く撫でた。
 あの時、エリザベスがいなければ、間違いなく私は連れ出されていただろう。公爵様は話をしたかったとおっしゃっているけれど、本当にそれだけのためだったのだろうか。セフィロス様との何かの交渉の手段に使われてしまう可能性もあったわけで、そうなれば、私の存在がセフィロス様に迷惑をかけてしまう。
 そうならなくてよかった。エリザベスには本当に感謝しなければいけない。

「エリザベスのおかげですねぇ。今度ちゃんと労ってやらないと」
「そうだな。エリザベスのおかげで大事なものを失わずに済んだ……」

 セフィロス様は私を強く抱きしめて、少しの間、何もおっしゃらなかった。ザックスさんも気にした様子はないようで、一人でワインを注いでは、飲むという動作を繰り返していらっしゃるらしい。
 私は身動き一つとれずにいたので、ただ、セフィロス様に身体を預けているしかできなかった。

「そういえば、坊ちゃまには、クラウドに手を出さないようにちゃんと注意なさったんですよね?」

 ザックスさんがふと思いついたように、言葉を出した。

「ん? 当たり前だ。こんなこと頻繁に起こされてはたまったもんじゃない」
「そうですよねぇ。でも、あの坊ちゃまが言うこと聞くでしょうか?」
「聞かないだろうな。聞かなかったとしたら、坊ちゃまが自分の家系がどうなってもいい、と判断したとみなすだけだ」
「…セフィロス様…?」

 私は何だか不安になって、セフィロス様の腕を掴んだ。
 セフィロス様は何か大きなものと引き換えに脅しをかけたのだ、とそう感じたからだ。

「…だんな様、私はだんな様の考えについていくつもりではございますが、だんな様の身に危険が及ぶようでしたら……」

 セフィロス様は軽く笑うと、ワイングラスをテーブルに置いて、私の手をゆっくりと解いた。

「ザックス、クラウド。二人とも何か心配しすぎてはいないか? ちょっと事の真相を世間の皆様に知ってもらうだけだ。それでも、家の名前に傷はつくだろう?」
「でも、そんなこと、気にも留めなさそうですけど、坊ちゃまは」
「…だろうな。だからこそ、坊ちゃまにはわざと違うように言ってきた」
「…だんな様、やっぱり……」

 ザックスさんの言葉に、セフィロス様は小さく笑うと、唐突に私を抱きしめた。渡すわけにはいかないからな、と私を抱く腕に力が入る。

「…セフィロス様…?」
「もし、また、クラウドを傷つけるようなことがあれば、どれだけの人を敵に回そうと、全力で潰します、と言い捨ててきた」

 どうして、この人は、何気ないことのようにさらりと言ってしまうのだろう。
 私一人のために、この屋敷も何もかも失ってしまうことをわかっているのだろうか。
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