Crazy a go go! [CASE:C] (5)
Crazy a go go! [CASE:C]

「いい加減に、離してください!」

 声を荒げて、腕に力を入れてみたが、男たちの腕を振りほどくことは出来そうにない。何とかしてこの男たちから逃げなければ、と思ったときだった。

「うわっ!」

 片方の男が、大きな声を上げて、私の手を離した。男はそのまま後ろにひっくり返って、思い切り背中を打ちつけたようだった

「エリザベス!」

 男の上にはエリザベスが乗っかっていて、じゃれるように前足で胸の辺りをトントンと触っている。その光景を目にしたもう片方の男は一目散に、大声で叫びながら、逃げ出していった。

「こ、こいつをどかしてくれ!」

 エリザベスにじゃれつかれている男は、恐怖におののいた形相でわめき散らしている。

「エリザベス、もういいわ」

 エリザベスは私の方を向いてつまらなさそうな顔をすると、男の上から降りて、私の足元に擦り寄ってきた。
 エリザベスから解放された男は、先に逃げた男の後を追うように、何度も転びそうになりながらも、全速力で駆けていった。

「ありがとう、エリザベス。助かったわ」

 エリザベスの頭を撫でてやる右手に痛みが走る。袖を捲くってみると、手首には指の圧迫痕が残っていた。左手も見てみると同様に圧迫痕が残っている。
 痕は見せなければばれないだろうけど、この痛みで夕食時の給仕ができるのだろうか。
 いや、痛みがばれないように給仕もしなくては。

「ねえ、エリザベス。さっきのことは内緒にしてね」

 エリザベスは、やや不服だといった顔をしながらも、抗議の意味で唸ったりはしなかった。



  ◇午後5時◇

「ただいま、帰ったぞ」
「おかえりなさいませ……。あら?」

 玄関ホールに出迎えると、そこにはザックスさんしかいなかった。

「だんな様はさっき庭の方から自室に直行なさった。かなり機嫌が悪いから、近寄らないほうがいい」
「公爵様のところで何かあったんですか?」
「何もなかった」
「何もない? 何もないのに不機嫌なんですか?」
「いや、違う、違う。そうじゃないんだ」

 ザックスさんは手の平を横に振りながら、苦笑した。

「特別に用事がなかったってこと。単に聞き役をさせられただけ」
「ああ、公爵様のお話をただ聞かされていた、と」
「そうそう。別に面白い話でもなかったしね。何のために呼んだんだ!ってだんな様、帰りの馬車の中でずーっとご立腹」
「まあ。それなら、夕食までは声をかけないほうが良さそうですね。では、私は今から夕食の準備を始めます」
「ああ、クラウド」

 急にザックスさんの声が低くなる。

「何か?」
「俺たちの留守の間に、変わったことはなかったか?」
「いいえ、特に何も」

 普段どおりを装って返答してみたけれど、ザックスさんは無言で私の顔を見ている。

「…それなら、いい。俺も自室にいるから、夕食の準備が整ったら、教えてくれ」

 ザックスさんは、くるりと背を向けると、廊下を歩き出した。その背が見えなくなってから、私は大きく息を吐き出した。
 聡い方だから、もしかしたら、何か感づいているかも知れない。夕食のときにでも、何か聞き出されるかも知れない。
 どれだけ、しらを切りとおせるか。
 何としても、セフィロス様にはばれないようにしなくては。
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