Crazy a go go! [CASE:C] (9)
Crazy a go go! [CASE:C]


  ◇午前10時◇

 いつもの目覚めの時より、部屋が明るい気がする。
 隣にセフィロス様の姿はなかった。
 もしかして寝坊した?
 慌てて飛び起きて、身支度を整える。手首の痛みはまだ残っているけれど、そんなことを言っている場合じゃなかった。
 広間に向かうと、ザックスさんがいて、何か書類を見ていた。

「ザックスさん!」
「あ、おはよう。よく眠れた?」

 ザックスさんは書類を片付けながら、私に笑みを向ける。
 しかられて当然なのに、怒っている様子は全くない。

「すいません、まさかこんな時間になっているなんて…」

 時計の針は10時を指していた。いくら何でも寝すぎだろう。

「気にしなくていい。たまにはゆっくり休むことも必要だ。一生懸命働きすぎ」
「で、でも、それが私の役目ですし…」
「役目? クラウドの役目なんて誰が決めたんだ?」

 ザックスさんはうーんと伸びをしてから、席を立った。

「クラウドがいてくれて、助かってることはたくさんある。でも、別に、それがクラウドの仕事、役目なわけじゃないだろ? 元々はクラウドは……」

 ザックスさんは言葉を切ると、急に身構えた。

「あの…?」
「今日は遊んでやる暇はないんだ! だんな様ももうすぐ帰ってくるし!」

 何に向かってわめいているのかと思ったら、私の隣にはいつの間にかエリザベスがいた。
 エリザベスはザックスさんのことを一番の遊び相手だと思っているらしい。じゃれついているつもりなのだろうけれど、ザックスさんにとっては、そうではないみたいだ。もちろん、自分の背丈ほどもある獣にじゃれつかれても、うまく対処するのは難しいだろう。

「ほら、エリザベス。今日はおとなしくしてなさい。セフィロス様ももうすぐ帰ってくるらしいわ」

 と、そこで違和感を覚えた。

「セフィロス様がお出かけですのに、ザックスさんはお供されていないのですか?」
「置いてけぼり、ではないけどな。クラウドを一人にするな、っていうお達し」
「…ザックスさんにもご迷惑を……」

 私のせいで屋敷内の方の日々の作業に狂いが生じている。数日後には元に戻るのかもしれないが、この私がここにいる限り、またしても同じことが起こり得るかもしれない。

「迷惑だなんて思ってないし。だんな様は一人で放っておいても問題はないだろうけれど、クラウドはそうはいかないだろう? それに、クラウドに何かあった時に一番悲しくて辛い思いをするのはあのだんな様なんだ。そういう思いをさせるわけにはいかないんだ」
「ザックスさん…」
「だんな様には言ったことないけどな。だんな様には俺もお世話になってるから」

 照れたように後頭部をかきながら、ザックスさんは先ほどまで座っていた席に座りなおした。ティーカップに紅茶を注いで、ふぅっと一息ついている。

「クラウドも座ったら? あ、でも、腹減ってるか。何か持ってこよう」
「い、いえ。大丈夫です。ところでセフィロス様は一人でどこへ…?」

 自分の指定席に座って、ザックスさんに問いかける。
 ザックスさんは静かにカップを置いてから、私の顔を見つめてきた。

「内緒、だそうだ。俺にも教えてくれなかった。自分一人で何かをしようとしているときはいつもそうだ」
「…ザックスさんにもお伝えしないことが…?」
「あるよ。今までに何度も」

 ザックスさんは悲しそうに笑った。

「始めのうちは信頼されていないのかな、とも思ったんだけどさ、そういうわけじゃないらしい。俺に何も言わない理由を教えてもらったことはないけれど、一緒にいる時間が長くなるとわかることもある」
「セフィロス様があえて行き先を告げない理由があるのですね」
「…多分ね。俺がそう思ってるだけだけど。わからないでもないんだけどな、だんな様の気持ちも」
「セフィロス様の気持ち?」

 ザックスさんは頬杖をついて、はぁ、と息を吐き出した。

「そう、だんな様の気持ち。詳しいことは省くけどさ、俺もメンバーの皆も、だんな様に助けられたんだ。だんな様は自分が助けなければと思った人に対してはとことん優しいし、どうあっても守り抜こうとする。それはありがたいことですごく感謝してるんだけど、その過程を全然見せてくれない」
「過程?」
「こういう手を打ったから、もう、大丈夫、とか。こう話をつけてきた、とかそういうことを絶対言わない。俺たちに心配かけないようにしようっていう気持ちの表れなんだろうし、その気持ちがわからないわけじゃないけど、もし、だんな様に何かあったら、俺たちどうすればいいんだろうって思う」
「…セ、セフィロス様は…」

 何だかどんよりとしたものが心を覆っていくようだった。
 小さく頷いてから、ザックスさんは震えるような声で呟いた。

「…一人で全部被ってしまうんだ」

 私は、いきなり深い穴に突き落とされたような、とてつもない不安に襲われた。
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