Crazy a go go! [CASE:C] (8)
Crazy a go go! [CASE:C]

「クラウド…」

 顎に手が添えられ、上を向かされる。セフィロス様は穏やかな表情で私を見つめてきた。その優しい眼差しを受け止めて、微笑み返せるほどの余裕がなかった私は、その視線から逃れるように、俯こうとした。
 しかし、セフィロス様が指先に力を入れ、顔を動かすことは叶わなかった。

「あ、あの…」
「何も気にしなくていい。そもそも、俺は元々クラウドに仕事をさせる気があったわけじゃない」
「…そ、それでは余計にここにいられません!」

 私はセフィロス様の腕を掴んでいた。

「クラウド?」
「ここにおいていただいているだけでも、大変ありがたいことなんです。それなのに、何もしないでいるなんて、そんなことできません!」

 セフィロス様がここに連れてきてくれて、住まわせてくださってるからこそ、今の私があるのであって、そうでなければ、私の命などとうの昔になくなっているに違いなかったのだ。

「落ち着け、クラウド」

 セフィロス様は柔らかく笑ってから、私をやさしく抱き締めた。何度も抱き締められ、セフィロス様の鼓動を微かに感じることなど数えきれないのに、未だにドキドキして身体が熱くなる。

「確かに、俺がクラウドをここに連れてきたのは、何とかしてやりたい、助けてやりたいっていう気持ちがあったからに他ならない。だけど、それ以上に、お前を側に置いておきたかったからだ」
「…セフィロス様…、私は…」
「クラウドが色々屋敷のことをしてくれているおかげでとても助かっている。それは本当にありがたいことで感謝している。だけど、クラウドが側にいて、こうやって抱き締められる、本当はそれだけで十分なんだ…」
「…でも、それでは、私はどうやって……っ!」

 この恩を返せばいいのだろう。どれだけのことをすれば、この命を救ってくれたセフィロス様にお礼ができるのだろう。

「正直に聞かせてくれればいい」

 セフィロス様は私の身体を離すと、笑みを見せて、頬に触れてきた。鼓動が早くなって、ドキドキの音が漏れ聞こえてないかと不安になる。

「…な、何をでしょうか?」
「俺のことが好きかどうか」
「……っ!」

 私が答えるよりも先に唇が塞がれる。答えはどうでもよかった、っていうことなんだろうか。
 滑り込んできた舌先が私の舌に触れて、私は自らの舌をセフィロス様の舌に絡めた。それは言葉で伝えられなかった想いの代わりだったのだけれど、その想いを飲み込んでしまうかのように、セフィロス様の口付けはさらに深くなる。夢中になってキスを受け取っている間に、ジーッと音がして、不意に背中がひんやりとする。背中のジッパーが下ろされたのだと気づいたけれど、しっかりと抱きかかえられていて、逃げることはできなかった。
 蕩けていく身体と頭の中。崩れてしまわないように、と腕に力を入れた瞬間、激痛が走って、身体をのけぞらせてしまう。

「クラウド!」
「…セ、セフィロス様……、私は……」
「悪かった。大丈夫か?」
「…大丈夫です。ごめんなさい、あの……」
「ちょっと我慢しろ」

 セフィロス様はそう言うと、私の手を掴んだ。何をするのかとびくびくしながら見ていると、片方ずつゆっくりと洋服の袖を抜く。ワンピースになっているから両方の袖を抜いたところで、洋服は足元に落ち、下着姿になってしまった。

「…セ、セフィロス様……」

 無言で私の膝を掬って横抱きにしたセフィロス様は、自分のベッドに私を寝かせて、額に軽くキスを落としてきた。

「何も気にせずゆっくり休むといい。腕の痛みが引くまでは何もしなくていいから、まず、治すことを考えろ」
「…私はご迷惑かけてばかり……」

 何かお役に立とう、それしかできることはないとわかっているのに、それさえもできないでいる。そんな自分がもどかしくて、そして、ここにいることへの罪悪感が胸に湧き上がってきて、涙が溢れてきた。

「……それでも……、側にいたいんです…」
「クラウド?」
「…セフィロス様のこと……、好きだから……」

 離れたくない。セフィロス様の側にいて声を聞いていたい。お顔を見ていたい。触れていたい。触れて欲しい。
 だけど、それはもう難しいことなのかもしれない。
 余計に悲しくなってきた私はセフィロス様に背を向けるようにしてベッドの上で丸まった。とめどなく流れる涙を止められずに、ただ、しゃくりあげていると、ベッドが軋む音がした。その途端、腰の下から腕が滑り込んできて、後ろからぎゅっと抱き締められる。
 クラウド、と耳元に響く声はいつもより穏やかで甘い。

「その言葉だけで俺はもう十分だ。だから、もう、何も考えなくていいし、気にしなくてもいい。でも、泣きたいだけ泣いていい。ずっとこうしててやる」

 そんなセフィロス様の優しさが私にはとてももったいない気がして、でも、とても嬉しくて。
 セフィロス様の腕に包まれている幸せに浸りながら、ただ、甘えている子供のように、私は泣きじゃくった。
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