Crazy a go go! [CASE:C] (10)
Crazy a go go! [CASE:C]


  ◇午後1時◇

 お昼の時間はとうにすぎているのに、セフィロス様はお戻りにならない。
 ザックスさんには昼前には戻る、と言って出て行ったそうだから、もう、帰ってきていてもおかしくないはず。
 先ほどの不安感は拭えないまま、さらに色を濃くしている。

「だんな様、予定より遅いな」
「…そうですね。何事もなければいいのですけれど……」

 いきなり大きな音がして、広間の扉が開け放たれた。そこには館の主が不機嫌そうな顔で立っていた。

「だんな様!」
「セフィロス様!」
「予定より遅くなってしまったな。読みが甘かった」

 上着を脱ぎながら、セフィロス様は歩みを進めて、私の椅子の後ろを通っていく。私は慌てて立ち上がって、セフィロス様を呼び止めた。

「どうした?」

 いつもと変わらない柔らかな笑顔をセフィロス様は浮かべる。
 もしかしたら、それを見ることはできていなかったかも知れないのだ。
 そう思ったら、ひどく怖くなって、私はザックスさんや他のメンバーがいることもおかまいなしで、セフィロス様に抱きついてしまった。

「クラウド?」

 セフィロス様にこうやって触れられることも、できなくなっていたのかもしれない。考えただけで、今にも泣き出しそうだった。

「ザックス、何か吹き込んだのか?」
「だんな様、人聞きが悪うございます。言わせていただければ、だんな様のせいです」
「俺…?」

 セフィロス様は私の頭を軽く撫でてから、何かを悟ったように、わかった、と言った。

「クラウド、話を聞こう」

 私の肩を掴んで、身体を引き離すと、私の腰を抱いて、歩き始めてしまった。



 セフィロス様は自分のお部屋に私を入れると、わざとらしく音を立てて、扉を閉めた。

「あ、あの、セフィロス様!」
「言いたいことは?」
「…どこへ行ってらしたんですか?」

 セフィロス様は少しだけ眉毛を持ち上げると、大きな動作でソファーに座った。

「内緒だ。ザックスにもそう言った」
「…そうですか。この私に言えないならまだしも、ザックスさんにもお伝えしないのはどういうことですか? ザックスさんは一番セフィロス様を理解して、一番近くにいらっしゃるのに!」
「…だから、だ」
「ザックスさんだから伝えたくないと?」
「ザックスだから、というわけではない。ここにいる全ての人間に伝えるつもりはなかった」
「どうして! セフィロス様が何も言わないから、皆さん、本当に心配してるんですよ!」
「……わかってる」
「わかってる? だったら、余計に伝えるべきではないんですか?」

 セフィロス様はゆっくり頭を振った。

「俺は皆に助けられている。その皆のためにできることは俺一人でやろう、と決めている。皆が信用できないわけじゃない。信頼に値するのは俺が一番良く知っている。それでも言わないのは…。どんなに心配されても言わないのは、巻き込みたくないからだ」

 巻き込みたくない。
 その台詞に、私はいきなり自分の立場を理解した。理解したというよりは、眼前に突きつけられたのだ。
 私の存在は、この人を必ず巻き込んでしまう、と。
 そう、だけど、巻き込むわけには行かない。

「そ、それなら……」

 喉を通る声は、声になっていなかった。
 乾ききった喉の奥は、焼けるように熱くて、呼吸もままならない。
 すでに巻き込んでしまっていて、もう、手遅れなのかもしれないけれど、もしかしたら、今なら、まだ間に合うかもしれなかった。

「私は今すぐこの衣装を脱いで、ここから出て行きます!」
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