Crazy a go go! [CASE:C]
意識が不意に現実に戻されて、私は目を擦った。片目を開いて見た天井は色が判別できるぐらいだから、部屋に光が差し込んできているのだろう。
もう、起きる時間なのかもしれない。
身体を捻って、時計を見ようとしたが、ぎゅっと腰を抱えられて、身動きが取れなくなる。
「セフィロス様……?」
小さく呼びかけてみたけど、反応はない。無意識なのか、起きていらっしゃるのかはよくわからなかった。
私はセフィロス様に抱きしめられて眠っているのが普通だから、朝目覚めて、起きる時にはセフィロス様を起こさないようにと、ゆっくり身体を起こすのだけれど、どう頑張っても、絶対ぎゅっと拘束されて、動けなくなる。
きっと起きているのだと思う。私の反応を楽しんでいるのだろう。
「セフィロス様…」
いつもは、セフィロス様の腕をそうっと解いて、ベッドから抜け出しているが、今日は少し変えてみた。
至近距離にあるセフィロス様の頬に触れてから、おはようございます、と声をかけてみる。
何もおっしゃらないのはわかっていたので、私はセフィロス様の唇に自分の唇を重ねた。すぐに離れようとしたのに、セフィロス様は私の頭を押さえつけてきて、舌を滑り込ませてくる。
やっぱり起きておられた様子。
抵抗したとしても離してはくれないだろう。
そもそも、抵抗する気などとっくになくなってしまっている。セフィロス様の舌は私の口中を深く執拗に責めていて、体の力は抜けて、意識も蕩けはじめていた。
「……はぁ…っ」
呼吸がままならなくなって、セフィロス様の腕を掴むと、ようやく唇を解放してくれた。
「…意地悪です…」
「…俺が…?」
セフィロス様は私に向かって、笑みを零す。その笑みに弱いことを知っていて、見せるのだから、やっぱり意地悪だと思う。
「他に誰が?」
「まさか、クラウドからキスしてくれることがあるなんて思ってなかったからな」
「眠っていらっしゃるのか確認したかっただけです。今後は寝たふりなどお止め下さいませ」
私はベッドから降りると、身支度を整えて、セフィロス様の部屋を後にした。
◇午前6時◇
キッチンでお湯を沸かし始める時間。
私がこのお屋敷に来たときから、変わらない作業。私にとっては新しい一日を迎えるための儀式になってしまっている。
私がこのお屋敷に来ることになったのは、色々事情が絡んでいるのだけれど、セフィロス様のはからいというところが大きい。
条件として女性として過ごすことを命じられ、この屋敷に来てからは、女性として過ごしている。女性でないことをセフィロス様以外の方々にはまだ見破られてはいない。
もちろん、女性として過ごしているのはセフィロス様の単なる趣味ということではなくて、そうせざるを得ない状態に私が置かれていたからで、私に残された道はそれしかなかった、ということでもある。
今の私があるのはセフィロス様のおかげで、セフィロス様には感謝しても、しきれないほど。
それ以来、少しでも恩返しができるように、一生懸命仕えさせていただいている。
私の気持ちの中は感謝やご恩以上に、大きな思いが占めているわけだけれど、それは伝わっているのかはわからない。
ただ、セフィロス様は私のことを好意的に思ってくれているみたい。みたい、というのはセフィロス様の言葉をどこかで信じ切れていないからだ。
伯爵の地位にあって、広大な敷地を有し、敷地内の農民や畑を統治しているセフィロス様は、農民たちに尊敬され、非の打ち所のないお人なのです。
伯爵というだけで、近隣貴族のお嬢様方の好奇心の目が向いているというのに、セフィロス様、容姿が誰よりも秀でておられる。綺麗という表現でも足りないでしょう。そんなだから、縁談の話はつきませんし、お嬢様方の訪問もひっきりなし。
そのような方が私などに好意を持つだろうか?
『好きだ』と言ってくださったその言葉をどこまで信じていいのか、私はまだわからずにいる。
セフィロス様の思いは本当はどこにむいているのだろう……。
はぁ、と大きく息を吐き出して、キッチンの脇にある籐かごの中を覗き込んだ。朝のスープに使う野菜を選ぶ必要があったからだ。
たまねぎを五つほど取り出して、皮をむき、後から後から溢れ出る涙と格闘しながら、たまねきをスライスしていると、クラウド、と大きな声で名前を呼ばれた。
もう、起きる時間なのかもしれない。
身体を捻って、時計を見ようとしたが、ぎゅっと腰を抱えられて、身動きが取れなくなる。
「セフィロス様……?」
小さく呼びかけてみたけど、反応はない。無意識なのか、起きていらっしゃるのかはよくわからなかった。
私はセフィロス様に抱きしめられて眠っているのが普通だから、朝目覚めて、起きる時にはセフィロス様を起こさないようにと、ゆっくり身体を起こすのだけれど、どう頑張っても、絶対ぎゅっと拘束されて、動けなくなる。
きっと起きているのだと思う。私の反応を楽しんでいるのだろう。
「セフィロス様…」
いつもは、セフィロス様の腕をそうっと解いて、ベッドから抜け出しているが、今日は少し変えてみた。
至近距離にあるセフィロス様の頬に触れてから、おはようございます、と声をかけてみる。
何もおっしゃらないのはわかっていたので、私はセフィロス様の唇に自分の唇を重ねた。すぐに離れようとしたのに、セフィロス様は私の頭を押さえつけてきて、舌を滑り込ませてくる。
やっぱり起きておられた様子。
抵抗したとしても離してはくれないだろう。
そもそも、抵抗する気などとっくになくなってしまっている。セフィロス様の舌は私の口中を深く執拗に責めていて、体の力は抜けて、意識も蕩けはじめていた。
「……はぁ…っ」
呼吸がままならなくなって、セフィロス様の腕を掴むと、ようやく唇を解放してくれた。
「…意地悪です…」
「…俺が…?」
セフィロス様は私に向かって、笑みを零す。その笑みに弱いことを知っていて、見せるのだから、やっぱり意地悪だと思う。
「他に誰が?」
「まさか、クラウドからキスしてくれることがあるなんて思ってなかったからな」
「眠っていらっしゃるのか確認したかっただけです。今後は寝たふりなどお止め下さいませ」
私はベッドから降りると、身支度を整えて、セフィロス様の部屋を後にした。
◇午前6時◇
キッチンでお湯を沸かし始める時間。
私がこのお屋敷に来たときから、変わらない作業。私にとっては新しい一日を迎えるための儀式になってしまっている。
私がこのお屋敷に来ることになったのは、色々事情が絡んでいるのだけれど、セフィロス様のはからいというところが大きい。
条件として女性として過ごすことを命じられ、この屋敷に来てからは、女性として過ごしている。女性でないことをセフィロス様以外の方々にはまだ見破られてはいない。
もちろん、女性として過ごしているのはセフィロス様の単なる趣味ということではなくて、そうせざるを得ない状態に私が置かれていたからで、私に残された道はそれしかなかった、ということでもある。
今の私があるのはセフィロス様のおかげで、セフィロス様には感謝しても、しきれないほど。
それ以来、少しでも恩返しができるように、一生懸命仕えさせていただいている。
私の気持ちの中は感謝やご恩以上に、大きな思いが占めているわけだけれど、それは伝わっているのかはわからない。
ただ、セフィロス様は私のことを好意的に思ってくれているみたい。みたい、というのはセフィロス様の言葉をどこかで信じ切れていないからだ。
伯爵の地位にあって、広大な敷地を有し、敷地内の農民や畑を統治しているセフィロス様は、農民たちに尊敬され、非の打ち所のないお人なのです。
伯爵というだけで、近隣貴族のお嬢様方の好奇心の目が向いているというのに、セフィロス様、容姿が誰よりも秀でておられる。綺麗という表現でも足りないでしょう。そんなだから、縁談の話はつきませんし、お嬢様方の訪問もひっきりなし。
そのような方が私などに好意を持つだろうか?
『好きだ』と言ってくださったその言葉をどこまで信じていいのか、私はまだわからずにいる。
セフィロス様の思いは本当はどこにむいているのだろう……。
はぁ、と大きく息を吐き出して、キッチンの脇にある籐かごの中を覗き込んだ。朝のスープに使う野菜を選ぶ必要があったからだ。
たまねぎを五つほど取り出して、皮をむき、後から後から溢れ出る涙と格闘しながら、たまねきをスライスしていると、クラウド、と大きな声で名前を呼ばれた。
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