Crazy a go go! [CASE:C] (7)
Crazy a go go! [CASE:C]

「……エリザベスは機嫌が悪いのでしょう…。セフィロス様に怒っているわけではないと思います……」

 セフィロス様は一瞬目を細めると、エリザベスの前にひざまづいた。
 うなり声をあげていたエリザベスは、いきなりおとなしくなって、ひれ伏した。
 この人にはあらがえない何かがある。それは対するものが人であろうと、獣であろうと。

「おまえが怒るのももっともだ。クラウドに謝ろうと思う。連れていってもいいな?」
「…セ、セフィロス様!」

 私が声を上げるよりも早く、セフィロス様は立ち上がり、私の腰に手を回した。

「腕が痛いんだろう?」

 耳元でささやく声に私は覚悟を決めた。



「見せてみろ」

 セフィロス様の部屋に入れられて、すぐにかけられた言葉だ。

「……」
「クラウド…、言いたくないのはわかるがな」
「…だからといって、言わないでいるのは許していただけないでしょう?」
「俺にまで隠すというのか?」
「できることなら、そうしたかったところです。でも、もう、お気づきですから…」

 私は痛みを堪えて、両腕の袖をまくった。
 私の手を取って、じっと手首を眺めた後、セフィロス様は唐突に私を抱きしめてきた。

「…悪かった、痛い目に遭わせた……」
「謝らないで下さい。セフィロス様が悪いわけでは……」
「…ま、まさか、奴ら…っ!」

 抱きしめていた腕を放して、セフィロス様は私の肩を揺さぶる。
 それは過去に数えるほどしか見たことのない動揺ぶりだった。過去に動揺させたのも私が原因だったのではあるけれど。

「いいえ、いいえ、違います! そうではないのです。だから、そんなお顔をしないで下さい」
「…クラウド…」
「そういうお顔を見たくなかったんです。心配をおかけしたくなかった…」

 まくった袖を下ろしてから、すみません、と頭を下げた。

「このことを言えば、きっと、セフィロス様は何か手を打とうとなさるでしょうし、そうなると、ここにいられなくなるかもしれない。エリザベスのおかげで私はここにいられましたし、何事もなかったように過ごしていれば、何も変わらないでいられるだろう、と。そう思ったから、私は…」
「手を打つ必要があるのはある。また、同じようなことが起こらないとも限らない。だからといって、クラウドをここから別の場所に移そうという気はさらさらない。何があっても、俺の側に置いておく」

 セフィロス様の真剣な眼差しに、縋りついていたくなる。そうすることができるのであれば、きっと幸せだろう、と思う。

「…私がいることでセフィロス様に危害が及ぶ可能性もございます。だから、本当はここにいてはいけないとわかっているのです。だけど、私は…」

 矛盾しているのは承知している。私がいると周りの方に迷惑がかかる。迷惑はかけたくないから出ていこうと思うけれど、でも、このお屋敷を離れたくない。セフィロス様のいないところに行きたくないのだ。

「俺のことは考えるな。今は自分のことだけを考えていろ。危険な目にあったのはクラウドなんだ。奴らじゃないとすれば、別の犯人がいるということだ。心当たりは?」
「いいえ」

 無理矢理連れ去ろうとするような人物で心当たりがあるのはセフィロス様が言う『奴ら』ぐらいだ。私を連れ去ったところで真実を知っている『奴ら』以外にはメリットはないだろうし、脅しのタネにもならないだろう。

「クラウドを連れて行きたい、クラウドが必要な人間。そして、俺とザックスがいないことを知っていたとなると……」

 セフィロス様はにやりと口元を持ち上げると、なるほどな、と呟いた。

「セフィロス様?」
「ああ、まあ、これで手を打てるだろう。クラウドはもう心配しなくてもいい。二度とこんな真似はしないようにしていただこう」

 部屋の端に置いてあるサイドボードに寄って、洋酒の瓶を取り出したセフィロス様は、ローテーブルにあったグラスを持ち上げて、なみなみと注ぎ始めた。

「わ、私がやりますのに!」
「本当はナイフを持つのさえ痛いんだろう? そんなクラウドに酒を注げなんて言わない」
「で、でも…」
「仕事がないか。では、俺の隣に座っていろ。それが仕事だ」

 ソファーに腰を下ろして、セフィロス様は自分の右側をトントンと叩いた。
 その隣に静かに座る。セフィロス様は何を言うでもなく、自分のペースでお酒を飲み続けた。
 その間、私はただ自分の手を見つめて、涙を堪えていた。
 側にいるのにメイドとしての役目を果たせずにいるなんて、もどかしくて、なんて役立たずなんだろう、と情けなくなっていたのだ。
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