Crazy a go go! [CASE:C] (14)
Crazy a go go! [CASE:C]

 ◇午後7時◇


「うわー、マジかよーっ!」

 ワゴンにワインのフルボトル、サンドウィッチを乗せて、キッチンからリビングに戻ってくると、ザックスさんがチェスの盤を眺めて、叫んでいた。

「ミラクルはどうした、ミラクルは?」
「起きるはずだったんですけどね! おっかしいなぁ…」

 ザックスさんは盤を眺めつつ、駒をあっちにやったりこっちにやったりしている。今までの手順を思い返しているのだろう。

「ああ、多分、その手が間違いだ。俺なら、こっち」

 セフィロス様は駒を一つ持ち上げて、別の場所に下ろす。

「なるほど! そうか、そうか」

 で、こうなるわけだな、と納得しては、駒を動かしている。

「あの、セフィロス様。間に合わなかったようですけど…」
「いや。おなかは空いているから頂く。ザックスも食べるだろう?」
「頭使いすぎて、ぺこぺこですよー」

 すばやく皿からサンドウィッチを一切れ掴むと、二口で食べてしまった。次々とすごいスピードでザックスさんの口の中にサンドウィッチが消えていく。

「相変わらず、いい食べっぷりだなぁ」

 セフィロス様は感心したように、ザックスさんの食べる様子を眺めている。セフィロス様は始めに一切れ食べただけで、ワインを傾けているだけだ。
 不安になって、セフィロス様に尋ねてみた。

「セフィロス様…、お口に合いませんでしたか?」
「いや、ザックスの食べっぷりに圧倒されてしまってな。もし、最後の一切れでも掴もうものなら、俺が食われそうだろ?」
「…食べませんよ。人を何だと思っていらっしゃるんですか。心外だな」

 そう言いながらも、ザックスさんはサンドウィッチを平らげて、満足、満足、とおなかをさすっている。

「だんな様がお疲れの様子だったから、今日は勝てると思ったのになぁー」
「何だ。そういう理由で俺をチェスに誘ったのか。残念だったな、朝の仕事に比べたら、これぐらい、何てことはない」
「朝の仕事……!」

 私が声を高くしたので、セフィロス様はしまった、というように頭を押さえたけれど、すぐに、話しておくか、と独り言のように呟いて、ワインを飲み干した。

「気になってたんですよね、朝、どこに行ってらしたのか」

 ザックスさんも興味津々の様子で、椅子にきちんと座りなおしている。
 セフィロス様はワインをグラスになみなみと注ぐと、一気に飲み干した。

「…朝は、坊ちゃまのところに行ってた」
「公爵様のところですか?」

 セフィロス様は公爵様のことを坊ちゃまとお呼びになる。公爵様はセフィロス様よりもかなり高い立場にいらっしゃる方なんだけど、セフィロス様はそんなことは気にしないらしい。公爵様の前に出るときはちゃんと敬語をお使いになって、丁寧にお話なさるから、公爵様は何とも思っていないのかもしれない。言ってることはかなりきつい内容だったりするのだけれど。

「何のために? 公爵様のくだらないお話は昨日聞いてきたところですよね?」

 ザックスさんはそう言いながら、グラスにワインを注いでいる。もう、新しいボトルを用意したほうがよさそうだった。

「誰がまた話を聞きに行くんだ。あんなのはもうごめんだ。今日は俺の方の話を聞いてもらいに行ってきた」
「セフィロス様の話ですか?」
「そう。話という穏便なものではないな。忠告、あるいは脅し、と言ったほうがいいだろう」
「こ、公爵様に脅し!?」

 ザックスさんはワイングラスをテーブルに置いて、いきなり立ち上がった。

「何てことを! そんなことしたら後が大変じゃないですかっ!」
「こっちが悪いわけじゃない。元々は向こうが悪い。こちらに非は全くない」
「公爵様が何かしたんですか?」

 ワインのボトルが空になったのを確認して、私が椅子から立ち上がったときだった。
 手首をセフィロス様に掴まれて、鈍い痛みが走る。昨日よりはましになってはいるけれど、痛みは残っていた。

「セ、セフィロス様…」
「クラウドをこんな目に合わせたんだ。脅しの一つぐらいかけても、文句はないだろう?」
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