Crazy a go go! [CASE:C] (15)
Crazy a go go! [CASE:C]

「やっぱり、昨日、何かあったんだな。おかしいと思ってたんだ」

 ザックスさんははぁーと大きく息を吐き出してから、また、椅子に座りなおした。

「ごめんなさい…」

 やはりザックスさんにも気づかれていたのだ。私は自分の意志に反して、人に心配をかけてしまっていたことになる。申し訳ない気持ちになって、その場を立ち去ろうとしたものの、セフィロス様は私の手を掴んだままだ。

「クラウドが謝る話ではない」

 セフィロス様は私の手を引っ張って自分の側に引き寄せると、自分の膝をポンポンと叩いた。
 それは、つまり、座れってことでしょうか?
 二人きりならまだしも、前にはザックスさんがいるんですけども……。

「あ、あの、ワインが空になってますので、取ってこようかと……」
「ああ、いい。俺が取ってくるよ」

 その場から逃げ出す口実はあっさりとザックスさんに潰された。
 ザックスさんは今度こそミラクルだっと言いながら、キッチンの方へと向かった。

「セ、セフィロス様…」
「いいから」

 何がいいのか、私には全くわからない。だけど、じっと見つめられたら、もう、逃げることなんて出来なくなってしまう。
 この人の瞳には魔法がかかっているに違いない。瞳だけじゃない、声も、姿、形も何もかも。

「クラウド…」

 声は特に強い魔法がかかってる。抗えない。
 私はゆっくりとセフィロス様の膝の上に横座りした。すぐさま、強く抱きしめられ、身動きが取れなくなる。

「ザ、ザックスさんが戻ってきますよ?」
「だろうな。気にしなくていい」

 無茶なことを! 気にならないわけがない。ザックスさんだって、居心地悪いに違いないのだ。

「…で、でも…」
「俺がこうしたいからしてる。それだけだ。それを周りがとやかくいう資格はないだろう?」

 もちろん、誰もセフィロス様には反論しないとは思う。この屋敷で限を持つのはセフィロス様だし、セフィロス様が言うことは絶対だ。時にザックスさんが反論することはあったりもするけれど、まれな話しだ。
 私がここで反論しようとしても、絶対言いくるめられるだろうし、すでに私が座ってしまっていることで、負けといえば負けなのだ。
 何も言えず黙っていると、セフィロス様は私の拘束を解いて、片方の腕で私の頭を引き寄せた。セフィロス様の肩に頭を預ける格好になり、私は静かに目を閉じた。

「あれ? クラウド、寝ちゃったのか?」

 ザックスさんの声が遠くの方で聞こえてる感じがする。本当はすぐ近くのはずなのに、意識が遠ざかり始めてるのだろうか。

「いや、起きてはいるが、きっと眠いのだろう。色々疲れてるはずだ」
「じゃ、二人で飲みますか! 朝の話をゆっくり聞かせてもらいますよ」

 ザックスさんはどうやら一晩呑み明かすつもりのようで、声が嬉々としている。ふふん~、となにやら鼻歌なんかを口ずさみながら、ワインのコルクを抜いているらしい。
 きゅっきゅっという音が少し続いた後、コルクの抜ける音が響いた。
 コポコポとグラスに注ぐ音と共に甘い香りが鼻を掠める。香りだけでくらりとして、セフィロス様にしなだれかかると、頭を抱えてた腕が肩におりて、ぐっと抱き寄せられた。

「坊ちゃんのところで、釘を刺してきたんだ」
「だんな様がわざわざ出向いて釘を刺すだなんて、何したんですか、アノ人」
「ああ、クラウド誘拐未遂だな」

 さらりとセフィロス様は言う。簡単に言うとそういうことになるのか、とぼんやりした頭で考えてみた。何のために私を連れて行こうとしたのだろう。今までに公爵様が私に対する執着を垣間、いや、あからさまに見せてきたことはあったけれど、それが理由なんだろうか。

「ゆ、誘拐って穏やかじゃないですよ!」
「穏やかじゃないな。この俺から取ろうなんてな」
「い、いや、確かにだんな様から取ろうとするなんて、穏やかじゃないんですけど、そういうことじゃなくて、事件でしょう、事件!」
「確かにな。だが、事件だ、なんだと騒ぎ立てたところで力があるのは向こうだ。こちらが不利になる。それよりは、直談判するほうがかしこいだろう?」

 違う。騒ぎ立てようが、直談判しようがセフィロス様が不利なことは間違いない。公爵様に脅しをかけているのだ。
 しかも、私を誘拐しようとした主犯が公爵様であるという確たる証拠はないはず。となるとどう脅しをかけたというのだろう。

「…セフィロス…様……?」
「ん? そんな蕩けた顔で見られると困るんだが…?」

 セフィロス様は口元だけで笑ってから、私の額に軽くキスを落としてくる。酔っ払ってる勢いってことにしたいけれど、この人が酔うわけがない…。
 ザックスさんが正面にいるってことをわかった上でやってくるから、たちが悪い。

「……私のことは置いておいてください。それより、どうして公爵様だと…?」
「ああ、確信はなかったが、話をしたらあっさり認めたんでな」
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