Crazy a go go! [CASE:A] (32)
Crazy a go go! [CASE:A](後編)

「はい、妹がセフィロス様の元でお世話になっていたのです。困ったことに、私の名前を使っていたようです。何を考えていたのやら、私もわかりかねる話なのです」
「なるほどな。それにしてもよく似ているな」
「双子なのです。だから、似ているのだと思います」
「その妹さんは?」
「数年前に旅に出てしまったそうです。いきなりなことでセフィロス様にもご迷惑をおかけすることになってしまって…」

 クラウドはしゅんとした表情でうつむいている。傍から見ている分には本当のことだと思えてしまうだろう。クラウドの演技力に怖さを覚えながら、セフィロスはワインを飲むことに集中した。

「では、その妹さんの代わりに君が?」
「い、いえ。代わりと言うわけではありません。私がここでお世話になることになったのも数日前の話ですし、妹がいなくなったと聞いたのもその時です」
「ほぉ。それにしては、給仕の仕方が板についているようにお見受けするが?」

 セフィロスはちらりと、ルーファウスの表情を伺った。ルーファウスの顔には疑いの表情が浮かんでいる。
 普段は自由気ままにわがままに、好き勝手に過ごしているような困った公爵ではあるが、頭がいいというので有名だ。
 もしかして、と焦るセフィロスのことなど気にした様子もなく、クラウドはにっこりと笑顔を見せた。

「公爵様にお褒めいただけるなんて、光栄です。そそうでもしなかったかと不安で仕方なかったので、少し落ち着きました。長々とつまらない話をして、申し訳ありません」

 クラウドは、では、失礼いたします、と丁寧にお辞儀をして、部屋から出て行ってしまった。
 セフィロスはワインのボトルを掴んで、ルーファウスのグラスに注ごうと思ったが、ルーファウスは黙ったままワインのグラスを揺らしている。

「公爵様?」
「…まあ、いいだろう…」
「何がですか?」
「90点。いや、95点だな」

 ルーファウスは扉の向こうを眺めたまま、呟く。
 何に対して点数をつけられているのか全く分からない。自分に対しての評価は低いはずだ、とセフィロスは認識しているので、クラウドの事であろう、と言うことはわかる。

「何が95点なのですか?」

 あえて尋ねてみると、ルーファウスは執事の出来だ、と軽く笑った。

「クラウドの?」
「まあ、元々こういうことをやっていたのだろうな。給仕の仕方は問題ない。俺が高い点数を付けたのは、主と自分の危機を救ったというところ、だな」
「…公爵様、それは…」
「そうか。妹は旅に出たか…」

 ルーファウスはセフィロスの言葉に答えることもせずワイングラスを置くと、いきなり立ち上がった。

「公爵様。もう、お帰りですか?」
「クラウド…ああ、妹の方だが、いないのではここにいても仕方あるまい」
「では、すぐにお送りの馬車を…」
「いい、馬車なら待たせてある。邪魔したな」
「い、いえ、おかまいもせず…」

 セフィロスも立ち上がって、クラウドの名前を呼んだ。

「待て、呼ばなくていい。その代わりに伝えておいてくれ」
「妹さんと会うことがあったなら、俺は本気だったと、そう伝えてほしい、と」
「公爵様…」
「とはいえ、その妹さんを手にした幸運な男も近くに存在するわけだがな」

 白い上着を羽織って、ルーファウスはすぐさま歩き始めた。その後を追って、セフィロスも続く。

「お見送りなど不要だぞ」
「…申し訳ございません…」

 深々と頭を下げたセフィロスの肩を軽く叩いて、ルーファウスは笑った。

「どうした? 謝られる覚えなど全くない。まあ、どうしても謝りたいというのなら、今年のワインができたら、持ってこい」
「…かしこまりました」
「では、帰る。幸せにな」

 上着の裾をひらひらとなびかせながら、しっかりとした強い足取りで去っていくルーファウスをセフィロスはしばらく見つめていた。
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