Crazy a go go! [CASE:A](後編)
「セフィロス様?」
クラウドの声が急に聞こえた気がして、セフィロスは肩を揺らした。
「あ、ああ。ルーファウス様がお帰りになるとのことで呼んだんだが、さっさと帰られてしまった」
「それは、残念でございました。もう一度、お礼を述べておこうかと思っておりましたのに」
クラウドは小さく息を吐き出すと、テーブルの上に残されたグラスやら皿を片付け始めた。
クラウドの後姿を眺めながら、セフィロスは考える。
本気だったという公爵。もし、クラウドが自分のことを何とも思っていなかったら、公爵の元へ行っていたのだろうか。例え、自分のことを思っていたとしても、公爵が真摯に愛を伝えた時。
クラウドはここに残ってくれていたのだろうか。
「…クラウド…」
「はい?」
「公爵様から伝言だ。妹さんに伝えてくれ」
「セフィロス様!」
クラウドの声を正面で受け止めないように、セフィロスは背中を向けた。そして、庭を見つめたまま言葉を続けた。
「『本気だった』、そう伝えてくれということだ…」
背中でクラウドの気配を感じることさえも放棄して、セフィロスは庭へと繋がる扉を開いた。
柔らかく降り注ぐ陽の光を浴びて、芝生は鮮やかな緑色に光っている。さわやかな光景とは裏腹に自分の心の中にもやもやしたどす黒いものが渦巻くのを感じて、セフィロスは軽く頭を振った。
クラウドが公爵を選んでいたら、自分はどうしていただろうか。
取り返しに行っただろうか。それともそのまま引いたのだろうか。
…この手にクラウドを抱くことのできない日々など…。
「セフィロス様…」
背中から抱きしめられる感覚に肩を揺らす。クラウドの声はとても遠くに聞こえたからだ。
「クラウド、どうかしたのか?」
「どうかしたのは私ではなく、セフィロス様です」
「俺は何も…」
背中から人の気配が消えたと思ったら、目の前にクラウドが回り込んできた。腰に手を当てて、仁王立ちだ。
「何をお考えなのかはわかりませんが、私はセフィロス様を選んだのです!」
まっすぐ見つめてくる瞳を見つめ返すこともできずに、セフィロスはクラウドの横を通り過ぎて、庭を横断して、端にある大きな木まで歩いた。
セフィロスがこの屋敷に来た時からある木で樹齢のほどはわからない。両腕で抱えきれないほどの幹の太さだ。
てっぺんが見えないその木を見上げながら、大きく息を吐き出した。
「…旦那様!」
聞きなれない響きに、セフィロスは思わず振り返ってしまった。クラウドの口から今まで一度も聞いたことのない呼び方だった。
旦那様とお呼びした方がよろしいですか、と聞かれた時も、却下したのだ。
「…何故、そのような呼び方をする…?」
「怒らせでもしないと、私と向き合ってもらえないからです。私に言いたいことは何ですか?」
「言いたいこと…?」
「そうです。言いたいこと、聞きたいこと、何でもいいです。そのもやもやしたもの吐き出してください。今更、遠慮など必要もないでしょう?」
「遠慮などしていない。お前は俺のものであるのだから…」
セフィロスはそう言い切った。
「そうお思いなら、どうして公爵様の言葉に動揺なさるのです? 私がセフィロス様のものであることはお分かりなのでしょう? 私が他の誰のものにもならないっていうことも」
「…わかってる…」
「嘘ですね」
クラウドの睨むような視線を受け止めて、セフィロスは眉をひそめる。クラウドはふいっと、顔を背けると、木の傍に寄って、幹を何度か撫でた。それから、木を見上げて、セフィロス、と呟いた。
「…今、何て…?」
今まで一度も呼び捨てにされたことなどない。本当に驚いてセフィロスは聞き返すしかできなかった。
「私があなたのものであるのと同時に、あなたは私のものなんです。私はあなたを選んだ時点で、あなたの全てを受け止めると決めました。セフィロス、あなたはこの木のように心の広くて、大きい方だと知っています。だけど、小さいことで不安になったりすることもあって当然です。だからと言って、私は軽蔑などしませんし、呆れたりもしません。それもセフィロス、あなたなんです。私にとってはどんなセフィロスも愛おしい」
クラウドは両手を広げて、優しく微笑みを浮かべた。
「さぁ、セフィロスの想いを受け止められるのも私。抱きしめられるのも私だけです」
セフィロスははじかれたように、クラウドを強くかき抱いた。クラウドの手がセフィロスの背中に回り、抱きしめられる。
「…俺は…本当にクラウドを失いたくないんだ…」
「はい…。私もセフィロス様を失いたくないです」
「だから、公爵様の言葉や思いが俺には怖くてたまらない。公爵様の言葉は過去形ではあったけれど、もしかしたら、のことを考えてしまっている…」
クラウドの身体が少し震えたのを感じ取って、セフィロスは抱いていたクラウドの身体を離した。
「…お疑いですか? 私を?」
「…俺には自信なんてない…。公爵さまほどの地位があるわけでも、財産があるわけでもない。幸せにしてやれる保証などどこにもないのだ…」
クラウドは大きく息を吐き出してから、セフィロスの頬を両手でぴしゃっと叩いた。そのまま頬を拘束して、自分の顔の方に引っ張る。
セフィロスとクラウドの顔が近づいて、鼻先が当たりそうだ。
「おわかりじゃないのですね。私を幸せにできるものが何なのか」
「俺に何がある…?」
「ここにあるじゃないですか」
クラウドはセフィロスの唇を塞いだ。
クラウドの声が急に聞こえた気がして、セフィロスは肩を揺らした。
「あ、ああ。ルーファウス様がお帰りになるとのことで呼んだんだが、さっさと帰られてしまった」
「それは、残念でございました。もう一度、お礼を述べておこうかと思っておりましたのに」
クラウドは小さく息を吐き出すと、テーブルの上に残されたグラスやら皿を片付け始めた。
クラウドの後姿を眺めながら、セフィロスは考える。
本気だったという公爵。もし、クラウドが自分のことを何とも思っていなかったら、公爵の元へ行っていたのだろうか。例え、自分のことを思っていたとしても、公爵が真摯に愛を伝えた時。
クラウドはここに残ってくれていたのだろうか。
「…クラウド…」
「はい?」
「公爵様から伝言だ。妹さんに伝えてくれ」
「セフィロス様!」
クラウドの声を正面で受け止めないように、セフィロスは背中を向けた。そして、庭を見つめたまま言葉を続けた。
「『本気だった』、そう伝えてくれということだ…」
背中でクラウドの気配を感じることさえも放棄して、セフィロスは庭へと繋がる扉を開いた。
柔らかく降り注ぐ陽の光を浴びて、芝生は鮮やかな緑色に光っている。さわやかな光景とは裏腹に自分の心の中にもやもやしたどす黒いものが渦巻くのを感じて、セフィロスは軽く頭を振った。
クラウドが公爵を選んでいたら、自分はどうしていただろうか。
取り返しに行っただろうか。それともそのまま引いたのだろうか。
…この手にクラウドを抱くことのできない日々など…。
「セフィロス様…」
背中から抱きしめられる感覚に肩を揺らす。クラウドの声はとても遠くに聞こえたからだ。
「クラウド、どうかしたのか?」
「どうかしたのは私ではなく、セフィロス様です」
「俺は何も…」
背中から人の気配が消えたと思ったら、目の前にクラウドが回り込んできた。腰に手を当てて、仁王立ちだ。
「何をお考えなのかはわかりませんが、私はセフィロス様を選んだのです!」
まっすぐ見つめてくる瞳を見つめ返すこともできずに、セフィロスはクラウドの横を通り過ぎて、庭を横断して、端にある大きな木まで歩いた。
セフィロスがこの屋敷に来た時からある木で樹齢のほどはわからない。両腕で抱えきれないほどの幹の太さだ。
てっぺんが見えないその木を見上げながら、大きく息を吐き出した。
「…旦那様!」
聞きなれない響きに、セフィロスは思わず振り返ってしまった。クラウドの口から今まで一度も聞いたことのない呼び方だった。
旦那様とお呼びした方がよろしいですか、と聞かれた時も、却下したのだ。
「…何故、そのような呼び方をする…?」
「怒らせでもしないと、私と向き合ってもらえないからです。私に言いたいことは何ですか?」
「言いたいこと…?」
「そうです。言いたいこと、聞きたいこと、何でもいいです。そのもやもやしたもの吐き出してください。今更、遠慮など必要もないでしょう?」
「遠慮などしていない。お前は俺のものであるのだから…」
セフィロスはそう言い切った。
「そうお思いなら、どうして公爵様の言葉に動揺なさるのです? 私がセフィロス様のものであることはお分かりなのでしょう? 私が他の誰のものにもならないっていうことも」
「…わかってる…」
「嘘ですね」
クラウドの睨むような視線を受け止めて、セフィロスは眉をひそめる。クラウドはふいっと、顔を背けると、木の傍に寄って、幹を何度か撫でた。それから、木を見上げて、セフィロス、と呟いた。
「…今、何て…?」
今まで一度も呼び捨てにされたことなどない。本当に驚いてセフィロスは聞き返すしかできなかった。
「私があなたのものであるのと同時に、あなたは私のものなんです。私はあなたを選んだ時点で、あなたの全てを受け止めると決めました。セフィロス、あなたはこの木のように心の広くて、大きい方だと知っています。だけど、小さいことで不安になったりすることもあって当然です。だからと言って、私は軽蔑などしませんし、呆れたりもしません。それもセフィロス、あなたなんです。私にとってはどんなセフィロスも愛おしい」
クラウドは両手を広げて、優しく微笑みを浮かべた。
「さぁ、セフィロスの想いを受け止められるのも私。抱きしめられるのも私だけです」
セフィロスははじかれたように、クラウドを強くかき抱いた。クラウドの手がセフィロスの背中に回り、抱きしめられる。
「…俺は…本当にクラウドを失いたくないんだ…」
「はい…。私もセフィロス様を失いたくないです」
「だから、公爵様の言葉や思いが俺には怖くてたまらない。公爵様の言葉は過去形ではあったけれど、もしかしたら、のことを考えてしまっている…」
クラウドの身体が少し震えたのを感じ取って、セフィロスは抱いていたクラウドの身体を離した。
「…お疑いですか? 私を?」
「…俺には自信なんてない…。公爵さまほどの地位があるわけでも、財産があるわけでもない。幸せにしてやれる保証などどこにもないのだ…」
クラウドは大きく息を吐き出してから、セフィロスの頬を両手でぴしゃっと叩いた。そのまま頬を拘束して、自分の顔の方に引っ張る。
セフィロスとクラウドの顔が近づいて、鼻先が当たりそうだ。
「おわかりじゃないのですね。私を幸せにできるものが何なのか」
「俺に何がある…?」
「ここにあるじゃないですか」
クラウドはセフィロスの唇を塞いだ。