Crazy a go go! [CASE:A] (26)
Crazy a go go! [CASE:A](後編)

 ◇◆◇

 空は雲一つなく青一色に染められていた。
 屋敷の中はザックスを筆頭にメンバーの方たちがバタバタと走り回っているようで、廊下の方から音が響いてくる。
 クラウドは自分にあてがわれていた部屋でエアリスと着替えをしていた。

「ちょっと我慢してね」
「…は、はい……」

 エアリスに言われてクラウドは返事したものの、コルセットでウエストをぎゅーっと締め付けられて、呼吸がままならない。

「よし。後はドレスね」

 エアリスに真っ白のドレスを渡されて、クラウドは小さく息を吐き出した。

「どうしたの? 嫌なことでも?」
「嫌だなんて、とんでもない! 嬉しくてどうしようもないのです。でも、セフィロス様が…」
「それなら大丈夫よ。クラウドがいなかった二年間をどう過ごしていたのか見てきた私は、お兄様が心変わりするなんてありえないって断言できるわよ」
「…そうだと、いいんですけど」
「大丈夫。絶対にね。さ、早く着てみて。お兄様が待ってる」

 エアリスに急かされて、クラウドは白いドレスに腕を通した。
 いつ用意されていたのかはわからない。レースがふんだんに使われたウエディングドレスだ。頭には金髪の巻き毛のかつらをつけられ、ケープをその上にかぶせられた。

「綺麗! 綺麗! 似合っちゃうから不思議だわ! きっと、式の間はお兄様、ずっとデレデレになるわね」
「…そんなことないと思います…」
「いいえ。そんなことあるから! ちょっと椅子にでも座って待っててね。お兄様をこっちに向かわせるから。私かザックスが呼びに来るまではここに二人でいていいから」
「あ、あの、お手伝い…します!」
「何言ってんの! 主賓は座ってればいいの」

 エアリスが言い残して部屋から出て行ってしまったので、クラウドは傍にあった椅子に座って、ぼんやりと外を眺めた。窓から見える庭には人が集まっていて、テーブルや椅子を運んでいる。

「まさか、これを着るなんて…」

 自分の姿を眺めながら、クラウドは苦笑した。
 身を隠すために女装していたのは二年以上前の話だし、もう、顔つきも体つきも昔ほど華奢ではない。

「本当にいいのかな…」

 小さく息を吐き出した途端、ドアをノックする音がして、クラウドは慌てて姿勢を正した。

「どうぞ」

 扉を開けて現れたのは白いタキシード姿のセフィロスだった。髪の毛を後ろで一つに束ねていて、見慣れた姿とは違い、クラウドはとっさに言葉がでなかった。
「クラウド!」
「は、はい…」

 勢いよく名前を呼ばれて、反射的に立ち上がった。大股で近づいてきたセフィロスにじっと顔を眺められて、クラウドは目をパチパチさせてしまう。セフィロスにただ見つめてられているだけなので、不安になって、呼びかけてみた。

「セフィロス様…?」
「クラウド!」
「わぁっ!」

 いきなりセフィロスに抱きついてこられたクラウドは驚いて声を上げてしまった。そんなクラウドを気にした様子のないセフィロスに強く抱きしめられて、あ…っ、と小さい声を漏らしてしまう。

「…クラウド?」
「あ、あの、苦しくて…」
「それは悪かった」

 そう言って手を緩めるセフィロスにクラウドは慌てて弁解をした。

「い、いえ、セフィロス様のせいではなくて、コルセットが…」
「そうか。大変だとは思うが、式の間は我慢しておいてくれ」
「…は、はい、大丈夫です。そうだ、セフィロス様」
「どうした?」
「よかったのですか?」
「何が?」

 クラウドは次の言葉を繋げずに、セフィロスの顔を見上げた。セフィロスは不思議そうに首を傾げているだけだ。

「…こんな風に式を挙げてしまうことです…」
「嫌なのか?」

 眉間に皺を寄せたセフィロスを見て、クラウドは頭を横に思い切り振る。

「い、いえ! 私は嫌などとは思っておりません」
「それならいい。後は皆の前で俺のものだと宣言するだけだな」
「セフィロス様!」
「どうした、クラウド。やけに落ち着きがないな」

 セフィロスに抱きしめられ、頭を撫でられていると、心地よくなってきて、クラウドはセフィロスに体を預けた。

「…セフィロス様…」
「…ん?」
「本当に私でよかったのですか?」
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