Crazy a go go! [CASE:A] (28)
Crazy a go go! [CASE:A](後編)

「クラウド、おめでとう」

 エアリスが駆け寄ってきて、めいっぱいの笑顔付きで祝福の言葉をくれる。

「ありがとう。エアリスさんには色々お世話になったのに、何もできなくて…。あ、これ」

 クラウドはブーケをエアリスに手渡した。

「エアリスさんにはもう意味ないかもしれないんですけど…」
「ううん、ありがたくもらっておくね。えっと、じゃあ、次はお兄様の番ね」
「俺の番?」
「ブーケトスはこれで終わったわけだから、ガータートスしてもらわないと」
「ああ、そういうことか」

 セフィロスは一人で頷いているが、クラウドには何のことかわからなかった。

「あの? セフィロス様?」
「クラウド、失礼するぞ」
「え? えええっ!」

 セフィロスにドレスの裾を捲り上げられて、クラウドは驚きの声を上げた。しかも、セフィロスはそのドレスの中に潜ってくる。

「セ、セフィロス様…」

 声をかけてみるが、セフィロスの方からは返事はない。それどころか、太ももに指が滑る感触が走って、クラウドは声を漏らしそうになった。
 どうしていいのかわからなくて、うろたえていると、エアリスにじっとしてて、と言われる。じっとしてろ、と言われてもクラウドには難しいことだった。
 片方の太ももはしっかりと指で掴まれていて、片方の太ももには唇で吸い付かれる感覚が幾度となく走るのだ。体の奥から火照ってきて、立っている足にも力がなくなっていく。声をかみ殺していられる自信などこれっぽっちもなかった。
 ふと、ガーターベルトが膝のあたりまで下ろされているのに気付いた。

「あ…っ、あの…」

 エアリスに視線を移すと、にこにこしながら、セフィロスの行為の意味を教えてくれた。

「新郎さんが口で花嫁のガーターベルトを外して、未婚の男性に投げるんだよ。ブーケトスの男性版みたいなもの」
「…それで、セフィロス様は……」
「頑張ってるんでしょうねぇ。ついでにやらしいことしてそうだけど…」
「…っ!」

 セフィロスはエアリスの声が聞こえていたかのように、わざとらしく太ももに指を滑らせる。足の付け根辺りを触るものだから、クラウドは歯を食いしばってうつむくしかなかった。
 太ももから湧き上がる淡い快感が途切れたと思ったら、足を少し持ち上げられる。その足が下ろされた後、セフィロスはドレスの中から出てきた。口にはレースのガーターベルトが咥えられている。
 セフィロスは咥えていたガーターベルトを掴むと、うわーっ、と湧き上がる列席者を見渡した。

「おい、ザックス!」

 その言葉にクラウドも列席者が集まっている方を向く。ザックスは列席者たちの一番後ろに立っていた。
 ザックスは小走りでセフィロスの傍まで寄ってきて、お呼びですか、と姿勢を正す。

「これはお前にやる」

 セフィロスはガーターベルトをザックスの前に差し出した。

「え? あの、俺、もう、未婚じゃなくなること決定してますけど…」
「わかってる。これは俺のちょっとした思い。今までお世話になってきたお礼と、これからもよろしく。それから、幸せのおすそ分け」
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいい。さあ、パーッと祝うぞ!」

 深く頭を下げているザックスさんの肩を叩き、ザックスの顔を上げさせると、ザックスと肩を組んで、ワインボトルの並ぶテーブルへと向かった。
 クラウドは小さく息を吐いて、セフィロスとザックスの後ろ姿を見送った。

「こんな綺麗な花嫁ほったらかして、飲む気満々ってどういうことよ!」
「エアリスさん…」
「全く、お兄様もザックスもどういうつもりなのかしら!」
「いいんです。お二人はずっと一緒におられて、今まで大変なことを乗り越えてこられたんでしょう。一緒に騒ぎたいのもわかります。お二人が仲良くされているのを見てると、こちらも楽しくなります」
「もう、クラウドはやさしすぎるわよ。お兄様にはもっと厳しく言いなさいよ」

 クラウドは軽く首を振ってから、エアリスの手を取った。

「私たちもご馳走にあずかりましょう。セフィロス様とザックスさんに食べつくされてしまいます」
「もう! お兄様のことだから調子に乗るわよ!」

 エアリスのまるで太い釘を刺すような強い口調に、クラウドは笑って返した。
 セフィロスに何を言っても無駄だということは、初めて出会った時からわかっている。
 セフィロスがあの時何も聞かず、かばってくれたから、今の自分がある。
 そんなセフィロスに何を言うことができるだろう。

「今さら、でしょう?」
「…そうね。言うとおりね。クラウド、苦労するわよ」
「いいえ。きっと、楽しくてしょうがないと思いますよ」

 クラウドはめいっぱい笑顔を見せてから、セフィロスの傍へと駆け出した。
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