Crazy a go go! [CASE:A] (29)
Crazy a go go! [CASE:A](後編)

 パーティーが終わったのは、すっかり日が暮れてからだった。
 クラウドはドレスを脱いで、シャツとズボンに履きかえると、エアリスに手伝ってもらって、後片付けをした。本当に手伝ってほしいザックスはセフィロスと張り合ったせいで、すっかり泥酔してしまっていて、動けない状態になってしまったのだ。張り合った相手であるセフィロスの方はケロッとした顔で、手伝おうか、と申し出てきた。
 セフィロスに手伝わせるわけにはいかなかったクラウドは丁重に丁重にお断りをして、何とかエアリスと二人で片づけを終わらせた。

「エアリスさん、ありがとうございました。お腹空いてません?」
「うーん、まあ、大丈夫かな。私のことは気にしないで、早くお兄様のところへ行ってあげて。きっと、むーっとしてるわよ」

 エアリスがむすっとした表情を作るのを見て、クラウドは小さく笑った。兄妹だからであろうか、セフィロスの表情が安易に想像できてしまう。

「…そうですか? じゃあ、一度、セフィロス様のところへ行ってみますね」

 クラウドはエアリスと別れて、セフィロスの部屋へと向かった。
 恐る恐るドアをノックしてみると、バタバタと言う足音が響いて、その後に、大きな音を立てて扉が開いた。

「クラウド!」
「は、はい」

 クラウドは腕を掴まれて、部屋の中に引きずり込まれた。

「セ、セフィロス様!」
「やっぱり、俺も片付けを手伝うべきだったな」

 エアリスが言っていた通り、セフィロスは不機嫌を顔全面に押し出していた。クラウドは慌ててセフィロスをなだめにかかった。

「そんなこと、おっしゃらないでください。セフィロス様に片付けをしていただくなんて、とんでもないことなんですから!」
「何がとんでもないことだ。俺が片づけをしたら、天変地異でも起こるとでも?」
「そういうことではありません。この館の主であるセフィロス様に何かをさせるなんてことが私にできるわけがないのです」
「何を言うか。主だから何もしなくていいというものでもない。何もしなかったおかげで、今の今まで一人で待ちぼうけだ」

 セフィロスはくるりと背中を向けると、テーブルに置いてあったワインボトルをひったくるように掴んだ。グラスに注いで、一気に飲み干している。
 クラウドは静かに近寄ると、後ろから抱きついた。

「クラウド?」
「お待たせしたのは悪かったと思ってます。でも、セフィロス様に何もかもしていただいてしまったら、私のできることがなくなってしまいます」
「別に俺はクラウドに何かしてもらいたいと思ってるわけじゃない」
「そうかもしれません。でも、私はセフィロス様にできるだけのことをしたいのです。でなければ、いつまでたっても、ご恩を返すことが出来ません」
「まだ、そういうことを言うんだな」

 セフィロスはグラスとボトルをテーブルに置くと、クラウドの腕を解いて、クラウドの方に向き直った。射抜くような強い視線を受けて、クラウドは一歩後ずさる。
 しかし、一気にセフィロスに距離を縮められて、クラウドは逃げることもできずに、両肩を掴まれた。

「俺はお前に恩を売った覚えはない。何に恩を感じてるんだ?」
「…あの時、教会でかばってくださったじゃないですか…」
「あれは俺がそうしたいと思ったからで、恩を着せるためじゃない」
「それに、私をお屋敷にまで連れてきていただいた上に、住まわせていただくことになってるんですもの。これに恩を感じない方がおかしいです」
「では、聞くが、クラウドは俺に恩を返すためだけにここにいるのか?」
「…それは…っ!」

 クラウドはセフィロスから目をそらして、俯いた。
 セフィロスが好きでずっと一緒にいたい。そう思ってこの場所に戻ってきたし、式も挙げた。しかし、この恩を返すこともせずに、ただ好きだからとそう言う理由だけで一緒にいてもいいのだろうか。恩を返すことが出来て初めて、自分の気持ちを伝えるべきだったのではないだろうか、と今は思っている。
 セフィロスもしばらく黙ったままで何も言わなかった。
 沈黙を最初に破ったのはセフィロスだった。

「…悪かったな。俺が思いを押し付けすぎてたんだな。言いたいことも言えなかったんだろ?」

 掴まれていた肩を離されて、クラウドは顔を上げた。
 セフィロスはいつもと同じく和やかな笑みを浮かべていて、クラウドは頭をポンポンと叩かれた。

「今日はゆっくりするといい。式で疲れているだろう? クラウドが恩を返すためだけにここにいるというのであれば、それはそれで……」

 セフィロスは言葉を切って、クラウドに背を向けた。

「セフィロス様!」
「ちょっと散歩に行ってくる。クラウドはここで眠るといい。俺は適当にする」

 椅子に掛けられたままだった上着を手に取ったセフィロスはそのまま部屋を出て行ってしまった。
 一人残されたクラウドは部屋を見渡してみた。誰もいない部屋。たった一人、何ができるというわけでもなく……。
 頭の中に嫌な記憶がよみがえってきて、クラウドは部屋から飛び出した。廊下を走って、セフィロスの姿を追う。
 玄関の扉を開こうとしているセフィロスを見つけて、クラウドは声を上げた。

「待ってください!」

 セフィロスが扉を閉めて、振り返る。

「どうした?」
「…セフィロス様…!」

 クラウドはセフィロスの傍までゆっくりと歩み寄ると、セフィロスに倒れ込むように抱きついた。セフィロスの腕が背中に回されて、しっかりと抱き締められる感覚に少しだけ落ち着きを取り戻した。

「何かあったのか?」
「…一人にしないでください…。もう、一人は…嫌なんです…」
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