Crazy a go go! [CASE:A] (31)
Crazy a go go! [CASE:A](後編)


 ◇◆◇

 セフィロスはこれでもか、というぐらいわざとらしく笑顔を作った。

「大変ご無沙汰しております。急にお見えになられて、どうなさったのですか?」
「いや、特に用件があったわけではない。近くを通りかかったものでな」

 金髪の前髪を後ろに流し、白いスーツを纏った男はそう言い、部屋の中をきょろきょろと見渡している。

「何か?」
「変わっていないな」

 男は少し微笑んでから、土産だ、と紙袋を差し出してきた。

「…土産?」
「お前のところのものには敵わないかもしれないが、なかなかいい味なんだ」

 セフィロスは中身を確認してから、男に座るように勧めた。男はゆったりとした動作でソファーに腰を下ろし、大きく息を吐き出す。

「ルーファウス公爵様、何かご心配事でも?」
「いや、そんなもの一つもない」
「では、どうして息をつくようなことを?」
「…ん? 何だろうな。まあ、気にするな。それより…」

 ルーファウスは身を乗り出してきて、声を小さくする。

「…何か?」
「あの、黒髪の執事はどうしたんだ?」
「あ、ああ、ザックスのことですか。ハネムーン中です」

 ザックスとエアリスはつい先日、挙式を上げ、そのまま旅行に出て行ってしまった。今までザックスには世話になっていた分、好きなだけのんびりして来い、と長期の休暇を与えたのだった。

「ほぉ。執事に先を越されたな」

 セフィロスはそうですね、と軽くかわしておくだけにした。本当はとっくに挙式など終えていて、長い間探し求めていた最愛の人を娶ったのだ。

「…じゃあ、あの金髪の執事はザックスが休みの間の代わりか?」
「いえ。ずっとこちらでの執事をしてもらうつもりです」
「執事が二人いる? それほど忙しいのか?」
「忙しいわけではないのですが、ザックスにはザックスが得意な仕事に専念してもらおうと思いまして」
「で、あの金髪の青年を?」
「はい、まあ、そういうことです。何か気になる点でも?」
「いいや。セフィロスの好みだな、と思っただけだ」

 ルーファウス公爵は笑みを浮かべて、セフィロスの様子を伺っている。
 好みかと言われたら好みなのかもしれないが、あの容姿だったから、というわけではない。
 あの時の衝撃は容姿だけでは済まされない、それ以上のものを感じ取ったからだ。
 もし、仮に背丈が違ったり、瞳の色が違ったりしても、はたまた、性別がまるっきり違ったとしても、同じ衝撃を受けていたに違いない。
 セフィロスは今でもそう思っている。
 いい返答がないかと考えているところで、ドアをノックする音が響き、小さくドアが開いた。

「セフィロス様。お話のところ申し訳ございません。ワインと軽くつまめるものをお持ちいたしましたが…」
「ああ、入っていいぞ」
「失礼いたします」

 そう言って部屋の中に入ってきた金髪の執事は、ルーファウスの前にグラスを置き、深紅の液体をグラスに注いだ。
 次にセフィロスの前にもグラスを置き、同じものを注ぐ。
 テーブルにはサンドウィッチやクラッカー、チーズなどが並べられた。

「クラウド、これをセラーの方に」

 セフィロスはルーファウスから受け取った紙袋をクラウドに渡した。

「クラウド…? クラウドと言えば、ここにいたお嬢さんではなかったか…?」

 セフィロスは反射的にルーファウスの顔を見た。ルーファウスは訝しげな顔つきで、セフィロスの答えを待っているようだった。
 つい普段通りにクラウドの名前を呼んでしまったが、ルーファウスはクラウドの本当の姿を知ってはいない。ルーファウスもクラウドに執着していたことを考えると、数年前のあのメイドの姿が脳裏に焼き付いているに違いない。
 セフィロスが言葉を吐きだすよりも先に、クラウドが口を開いた。

「ルーファウス公爵様、その当時は妹がお世話になりました」
「い、妹?」

 ルーファウスの声が裏返る。セフィロスも唾を飲みこんで、クラウドの顔を見上げた。
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