Crazy a go go! [CASE:S] (1)
Crazy a go go! [CASE:S]

 ここ1ヶ月ほど、何にも困ったことなども起きず、ゆったりとした時間が続いていたため、2日ほど前に執事のザックスに休暇をやったところだと言うのに。
 俺は手紙にしては大きめの封筒を、テーブルに放り投げた。
 こんなときに限って、ろくでもない内容の手紙が来るとはな。
 俺は大きく伸びをして、ソファーに横になった。
 手紙を読んでから、どうにもイライラして、ワインを一瓶空けてしまった。
 部屋には太陽の光が痛いほど差し込んできていて、まぶしくてしょうがない。
 こんな時間から飲んでると、ザックスがさぞかし怒るだろう……。

「失礼します、旦那様」

 その声に俺は思わず飛び起きた。聞きなれたこの声が今、この場所で聞こえるわけがないはずだ。

「旦那様! また飲んでらしたんですか! 昼間からお召し上がりにならないように、とあれほどいつも言ってるじゃありませんか!」
「大きな声を出すな、頭に響く。それより、お前、休暇はどうした?」
「…休暇ですか?」

 ザックスは自分の足元に大きな鞄を下ろしながら、聞き返してきた。

「そう、2週間は好きにしていい、と言ったはずだ」
「1日目、2日目と素敵な女性たちと楽しく過ごさせていただいたのですけれど、身体が持たなかったのです」
「ほぉ…」

 俺が片方の眉を吊り上げると、ザックスは軽く咳払いをした。

「…と言いたいところではございましたが、実は嫌な予感がいたしました」

 ザックスの雰囲気はいつもどおり、きっちりした執事のものになっていた。この俺のスケジュールを全て把握し、仕事の段取りから必要なものの手配など、俺の『仕事』にかかわる全てのことを一手に引き受けている。

「…俺の思いが通じたか…」
「旦那様、それほどまでに私のことを…」
「今回ばかりはな」
「旦那様?」

 俺がいつもなら、冗談を言うな、などとたしなめるのだが、そう言わなかったことにザックスは不安になったらしい。

「…まあ、座ってこれを読んでくれ」
「失礼します」

 ザックスは俺の向かい側に座ると、封筒の中身を一つ一つ真剣に目を通し始めた。俺はその間にグラスを2つと、新しいワインを用意した。

「…どうなさるんです…?」

 手紙などを封筒に戻しながら、ザックスは尋ねてきた。

「どうするもなにも、話を聞くしかないだろう?」
「話を聞いてしまったら、断れないと思うんですが…」
「話を聞こうか聞くまいが、断れないように仕向けてくるだろうさ。だから、とりあえず話を聞いてから、その後のことは考える」
「…クラウドは…?」

 俺はワインを注ぐ手を止めた。ワインの瓶を机に置いて、大きく息を吐き出した。

「それが一番の問題だったりする…。お客様の相手はクラウドが全部することになっているからな」
「会わせるわけには行かないのでは?」
「ぼっちゃんが連れて来いって言うに決まってる」
「クラウドを休ませるわけには行かないのですか?」
「それも考えた。だが、きっと、クラウドは了承しないだろうから」

 以前、休暇を勧めたのだが、仕事をしている方がいいと言って、休もうとはしなかったのだ。

「では、先にクラウドに伝えておく、というわけには…?」
「手紙を読んだだろう? 口外するな、と書いてある」
「ええっ!? 私、読んでしまいましたが?」
「ザックスはいい。全てを把握していてもらわなければ困る。明日の話し合いにも同席してもらうつもりだ」
「私はかまいませんが…、それよりも、クラウドを…」

 俺は大きく天井を仰いだ。別に解決策をもたらしてくれる天使が降りてくるわけでもないのに。

「…クラウドには辛い思いをさせるかもしれない……」
「旦那様! いいのですか! あのぼっちゃんは何を企んでいるのかは知りませんが、旦那様のお見合い相手を連れてくるんですよ! その相手をクラウドにさせるんですか!」
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