Crazy a go go! [CASE:S] (14)
Crazy a go go! [CASE:S]

「セフィロス様、お話が…」

 部屋の扉を叩く音と、それに混じった声で目が覚めた。
 隣に寝ていたはずのクラウドの姿は無く、メイドとしての仕事をすでに始めているらしい。
 時計の針が午前9時を指しているのを確認して、ベッドから降りる。ソファーに座り、煙草に火をつけてから、入っていいぞ、と声をかけた。

「失礼します」

 部屋に入ってきたのはザックスで、入ってくるなり抱えていたノートを開いた。

「本日の予定のことなのですが…」
「11時に公爵様がお見えではなかったか?」
「それが、何やら大変なことが起こっていらっしゃるそうで、本日はこちらに赴けないとのことだそうです。公爵様の使いの方がお見えになって、おっしゃっておられました」
「ふーん。では、俺の見合いの話は?」

 本当なら今日が見合いの返事をする日だったのである。ぼっちゃんが来れないとなると、返事のしようもない。

「その話もなかったことに、と言付かっておりますが」
「そうか。では、当分は今のままで問題ないということだな」

 ザックスはノートを閉じると、いきなり笑い始めた。

「何だ、急に」
「お使いの方に聞いたところによると、公爵様の屋敷の前には、着飾った女性達が長蛇の列を作っているらしいですよ」
「それはそれは……。おもしろいこともあるものだな」

 俺は煙草をもみ消すと、ソファーに横になった。見合いの話がなくなったということで俺は胸に重くのしかかっていた嫌な気分から解放されて、すがすがしい気分だった。これで当分平和な日々が送れる……。

「何を言ってるんですか! ご自身でそう仕向けたくせに」
「人聞きが悪いな。結果的にそうなっただけだ」
「きっかけを作ったのは旦那様じゃないですか」
「確かに。だが、この状況になるかどうかはわからなかったんだぞ。ぼっちゃんのところへ一人も行かなかったら、俺はこの後、ぼっちゃんとバトルすることになっていたはずだからな」
「そうかもしれませんが……」
「俺が指示したのは、張り紙を公爵様の領地外に張って来いってことだけだ。それはザックスも知っていることではないか」

 俺は昨日の晩、張り紙を20枚ほど張ってくるように指示した。張り紙の内容は、次のとおりだ。

公爵様がお見合い相手を探している。

希望者は明日の朝9時に公爵様の屋敷前に来るように。

この張り紙を見たものは、他言無用。張り紙があったことも口外しないよう。

 時間は夜の10時をまわっていたので、多分、人通りは少なかったはずだ。その2時間後にはその張り紙を剥がすよう指示したので、見た人数はかなり限られるはずだ。
 にもかかわらず、ザックスの話からすれば、ぼっちゃんの屋敷の前には長蛇の列ができるほど人が集まっている。つまり、人の口から口へ噂が広まったと言うことだろう。他言無用と書かれていても、広まるものは広まるのだ。

「でも、狙ったとおりになったではありませんか」
「まあな……」

 坊ちゃんにお見合いの大変さをわからせるのと、ぼっちゃんのところに人が集まればその状態を収拾するのに、時間を要することになり、こちらへの訪問はなくなるだろう、と考えて、仕掛けたことである。
 俺の想像以上に、ぼっちゃんのところは大変なことになっているようだが。

「今回はこれでかわせたかも知れませんが、また同じようなことを仕掛けてくるかも知れませんよ」

 ザックスは俺の向かいのソファーに腰を下ろした。

「次は断る。今後何があっても断るから大丈夫だ」
「ぼっちゃまはクラウド獲得には手段を選びませんよ」
「それなら、俺もクラウドを守るために手段を選ばないだけだ」
「すばらしい! クラウドに聞かせてやりたい言葉ですね」

 ザックスは手を叩いて、感心したような態度を取っているが、俺からしてみれば、からかわれているようにしか思えない。なぜなら、顔がにやにや笑っているからだ。
 諌めようとザックスに声をかけようとしたときだった。
 ドアをノックする音が部屋に反響する。

「お話中失礼いたします」
「どうした?」

 恭しく頭を下げてから、クラウドは俺の側まで寄ってきた。

「先ほど、またルーファウス様のお使いの方がいらっしゃいまして、この封書をセフィロス様に、と」
 俺はザックスと顔を見合わせてから、大きく息を吐き出した。
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