Crazy a go go! [CASE:S]
「大変です、旦那様!」
扉を思い切り叩いている音がしている。
昨日の晩のクラウドの言葉を考えながら飲んでいるうちに眠ってしまっていたようだ。いつも朝起こしにくるのはクラウドなのに、今日はザックスが叫んでいる。
「一体、朝から何の用だ」
扉を少し開けたら、ザックスはその扉を無理やり開いて、部屋の中に滑り込んできた。
「何の用だ、じゃありませんよ! 恐れていたことになってしまいましたよ!」
「恐れていたこと?」
「…クラウドがいません…」
ザックスの言葉が一瞬理解できなかった。
「いない…?」
「ええ! この屋敷のどこにもね!」
俺はソファーに沈むように座った。
円満に事が運ぶはずはないと思っていたが、その通りになってしまった。
あの口付けは最後を意味していたのか……。
「置き手紙も何もありませんでしたから、帰ってくるつもりもないんでしょう」
「俺のせいだな…」
「そうですね」
ザックスはあっさりと肯定してきた。少しぐらい遠慮とかフォローとかあってもいいと思ったが、この件でザックスはずっと俺を許せないみたいなので、仕方ないだろう。
「…夢……」
俺は昨日クラウドがやたらと言っていた「夢」という言葉が気になっていた。
「夢?」
「クラウドが夕べ、言っていた。『これ以上夢を見たくない』と…」
「そりゃそうでしょ。旦那様が結婚するんですから」
「どういうことだ…?」
「…切れ者ですけど、鈍いですよね、旦那様」
ザックスは俺を哀れむように息を吐き出している。よっぽど俺はバカに見えるらしい。
「…もっと言葉を選んでくれないか?」
「私も怒っておりますので、言葉を選ぶ余裕などございません」
「鈍い……か…」
自分では鈍いと思ったことはなかったのだが、クラウドが絡んでくると、どうにも思考回路が上手く働かないらしい。自分にショックなことが起きないように無意識に回避しているのかもしれない。
「ええ、とても。クラウドの夢といえば一つしかないでしょう。そして、その夢はあっさりと崩れ去ったわけです。まあ、その夢を見させていた本人に崩されたわけですから、心中穏やかじゃないでしょうねぇ」
ザックスは語尾をわざと伸ばして、嫌味たらしく言ってきた。
「夢を見させていたのは俺だ、と?」
「そうですよ。だからこれ以上夢を見たくないでしょうね」
「俺が見させていた夢とは一体……」
ザックスは机を思い切り叩いた。ここ数日ワインを飲んでばかりいるものだから、その音が俺の頭の中で大反響している。
「わかりませんか? ワインの飲みすぎで、脳みそがアルコール漬けになってるんじゃないですか? 旦那様が一番わかってないといけないんですよ! それともわかっててわかってないフリをしていらっしゃる? ま、どちらでもいいです。クラウドの夢は旦那様と一緒になることですよ!」
「クラウドが俺と…?」
「当たり前じゃないですか。旦那様にはその気がなかったんですか?」
「そんなわけないだろう! クラウドは俺のものだ」
そう、クラウドは俺のもので、こんなことにならなければ絶対手放すこともなかったのだ。
「その台詞は昨日までのこと。クラウドはこの先公爵様の元へ行くことになり、旦那様はクラウドの所有権を主張できなくなる。そして、それを選んだのは旦那様本人です」
「…そう…だな……」
俺は主として最良の道を選んだと思っていた。しかしそれはもしかしたら違っていたのかもしれない、と思い始めていた。
「…旦那様、私、旦那様に守っていただくほど、弱くはありませんので」
「ザックス?」
「他のみんなも同様でしょう。それに、今の死んだような旦那様にお仕えするぐらいなら、お暇を頂戴したいのですが」
ザックスは毒舌を吐きながらも、笑っていた。笑顔ではなくて、口元を少し持ち上げただけの笑い。それは俺に対して、さあ、どうする?と言っているようだった。
俺は今までの考えを思い返してみた。俺は主としてみんなを守らなければと思っていたが、それは俺のエゴだったらしい。やはり、俺の選んだ道は間違っていたようだ。
俺はソファーから立ち上がって、上着を羽織った。
「……この先、ただ働きでもいいか…?」
「問題ないでしょう。お金が必要になれば、この屋敷の人間がちょっと外にでれば、すぐ稼げます」
「返事の日まで屋敷を空けて、問題は…?」
「旦那様のスケジュールぐらい、この私が何とでも」
ザックスはしっかりと俺の目を見て、返事をした。ザックスが頼りになるのはこの俺が一番よく知っている。
「よし、では、ザックスに早速頼みがある。馬車を門の前に回してくれ」
扉を思い切り叩いている音がしている。
昨日の晩のクラウドの言葉を考えながら飲んでいるうちに眠ってしまっていたようだ。いつも朝起こしにくるのはクラウドなのに、今日はザックスが叫んでいる。
「一体、朝から何の用だ」
扉を少し開けたら、ザックスはその扉を無理やり開いて、部屋の中に滑り込んできた。
「何の用だ、じゃありませんよ! 恐れていたことになってしまいましたよ!」
「恐れていたこと?」
「…クラウドがいません…」
ザックスの言葉が一瞬理解できなかった。
「いない…?」
「ええ! この屋敷のどこにもね!」
俺はソファーに沈むように座った。
円満に事が運ぶはずはないと思っていたが、その通りになってしまった。
あの口付けは最後を意味していたのか……。
「置き手紙も何もありませんでしたから、帰ってくるつもりもないんでしょう」
「俺のせいだな…」
「そうですね」
ザックスはあっさりと肯定してきた。少しぐらい遠慮とかフォローとかあってもいいと思ったが、この件でザックスはずっと俺を許せないみたいなので、仕方ないだろう。
「…夢……」
俺は昨日クラウドがやたらと言っていた「夢」という言葉が気になっていた。
「夢?」
「クラウドが夕べ、言っていた。『これ以上夢を見たくない』と…」
「そりゃそうでしょ。旦那様が結婚するんですから」
「どういうことだ…?」
「…切れ者ですけど、鈍いですよね、旦那様」
ザックスは俺を哀れむように息を吐き出している。よっぽど俺はバカに見えるらしい。
「…もっと言葉を選んでくれないか?」
「私も怒っておりますので、言葉を選ぶ余裕などございません」
「鈍い……か…」
自分では鈍いと思ったことはなかったのだが、クラウドが絡んでくると、どうにも思考回路が上手く働かないらしい。自分にショックなことが起きないように無意識に回避しているのかもしれない。
「ええ、とても。クラウドの夢といえば一つしかないでしょう。そして、その夢はあっさりと崩れ去ったわけです。まあ、その夢を見させていた本人に崩されたわけですから、心中穏やかじゃないでしょうねぇ」
ザックスは語尾をわざと伸ばして、嫌味たらしく言ってきた。
「夢を見させていたのは俺だ、と?」
「そうですよ。だからこれ以上夢を見たくないでしょうね」
「俺が見させていた夢とは一体……」
ザックスは机を思い切り叩いた。ここ数日ワインを飲んでばかりいるものだから、その音が俺の頭の中で大反響している。
「わかりませんか? ワインの飲みすぎで、脳みそがアルコール漬けになってるんじゃないですか? 旦那様が一番わかってないといけないんですよ! それともわかっててわかってないフリをしていらっしゃる? ま、どちらでもいいです。クラウドの夢は旦那様と一緒になることですよ!」
「クラウドが俺と…?」
「当たり前じゃないですか。旦那様にはその気がなかったんですか?」
「そんなわけないだろう! クラウドは俺のものだ」
そう、クラウドは俺のもので、こんなことにならなければ絶対手放すこともなかったのだ。
「その台詞は昨日までのこと。クラウドはこの先公爵様の元へ行くことになり、旦那様はクラウドの所有権を主張できなくなる。そして、それを選んだのは旦那様本人です」
「…そう…だな……」
俺は主として最良の道を選んだと思っていた。しかしそれはもしかしたら違っていたのかもしれない、と思い始めていた。
「…旦那様、私、旦那様に守っていただくほど、弱くはありませんので」
「ザックス?」
「他のみんなも同様でしょう。それに、今の死んだような旦那様にお仕えするぐらいなら、お暇を頂戴したいのですが」
ザックスは毒舌を吐きながらも、笑っていた。笑顔ではなくて、口元を少し持ち上げただけの笑い。それは俺に対して、さあ、どうする?と言っているようだった。
俺は今までの考えを思い返してみた。俺は主としてみんなを守らなければと思っていたが、それは俺のエゴだったらしい。やはり、俺の選んだ道は間違っていたようだ。
俺はソファーから立ち上がって、上着を羽織った。
「……この先、ただ働きでもいいか…?」
「問題ないでしょう。お金が必要になれば、この屋敷の人間がちょっと外にでれば、すぐ稼げます」
「返事の日まで屋敷を空けて、問題は…?」
「旦那様のスケジュールぐらい、この私が何とでも」
ザックスはしっかりと俺の目を見て、返事をした。ザックスが頼りになるのはこの俺が一番よく知っている。
「よし、では、ザックスに早速頼みがある。馬車を門の前に回してくれ」