Crazy a go go! [CASE:S] (10)
Crazy a go go! [CASE:S]

 久々に戻った屋敷は思っていたより静かだった。
 応接室に入ると、ザックスがテーブルを拭いていた。テーブルを拭いたりする作業はザックスの仕事の範囲外だ。
 そういえば、この屋敷で働いている他の者がいない。そのせいで、屋敷の中が静かに感じられたのか。

「ザックス?」
「あ、お帰りなさいませ!」

 ザックスは慌てて振り返ると、俺に深く頭を下げてきた。

「ただいま。他の者はどうした?」
「この先どうなるかわかりませんでしたので、セフィロス様が出発なさった後に、休暇を与えました。ただし、いつでも呼び戻しに応じるようには伝えております」
「相変わらず、ぬかりないな。色々、手間をかけてすまなかった」
「いいえー。全然かまいませんよ。ちゃんとお二人で戻っていらしたのでしたら」

 ザックスの顔は笑っていたが、瞳は笑っていなかった。ザックスはクラウドに戻ってきて欲しいがために、ここまでしたわけだから、その結果が気になるのは当然だし、笑えないのも当然だろう。

「クラウド」

 俺は振り返って、ザックスが戻ってくることを期待していた人を呼んだ。
 クラウドは部屋に入ってくるなり、すみませんでした、と頭を下げた。
 クラウドはいつものメイド衣装に着替えていて、少年の面影は全くない。それどころか、前よりも綺麗になっているようだった。
 ザックスも一瞬、言葉をなくしたようだった。

「ク、クラウドが謝る必要はない。クラウドが悪いわけじゃなくて、旦那様が悪いんだから」
「あの、でも……」
「いいの、いいの。クラウドは迷惑こうむった方だし。戻ってきたところで疲れてるだろうから、ゆっくり休むといいよ」
「そういうわけにはいきません。すぐにお仕事しますね」

 クラウドは応接室からぱっと出て行くと、廊下を駆けていった。今までの幸せな日常が戻ってきた瞬間だ。

「よかったですね、戻ってきてもらえて」

 クラウドの後姿を見送っていた俺は、ザックスに視線を戻した。

「そうだな。本当によかった」
「大嫌いとか言われませんでした?」
「残念ながら、言われなかった。言われてたら、お前の出番だったのにな」

 ザックスは大きく頭を振った。

「あのですね、そんなことにならないのはわかってます。だから、そういうこと言うのはやめてください。それよりも…」

 どうするんですか、と声のトーンを下げてザックスは尋ねてきた。

「ああ、ぼっちゃんのことか」

 ソファーに座ったところで、クラウドが部屋に入ってきた。クラウドが押してきたワゴンには、ワインとオードブル、サンドイッチなどが乗っていた。

「軽いお食事をお持ちしました。昼食はいかがいたしましょう? 今からですと少し遅くなってしまうのですが…」

 クラウドからワイングラスを受け取ってから、喉を潤す。バーでリーブさんと会う前に飲んでいた酒とは大違いで、格段においしい。クラウドがいる、いないだけでこれだけの差を生み出すのだから、俺はいつの間にかクラウドなしでは生きられない状態になっているらしい。

「…昼食はいい。それより、今晩は屋敷の者全員でパーティーをするつもりで料理を用意してくれ」

 クラウドは、かしこまりました、と恭しく礼をしてから、応接室から出て行った。

「旦那様?」
「ああ、ザックスは屋敷の者を全員呼び戻してくれ。やってもらいたい仕事があるんでな」
「何をお考えなのですか?」

 ザックスは興味津々と言った顔をして尋ねてきた。俺はグラスのワインを飲み干してから、軽く笑った。

「ちょっとおもしろいことをしようかと思ってな」
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