Crazy a go go! [CASE:S] (15)
Crazy a go go! [CASE:S]

 クラウドから封書を受け取ると、側にあったペーパーナイフで封を開けた。中には便箋が一枚入っていた。

「何て書かれてあるんです? 読んでくださいよ」

 ザックスの催促にうなずくと、手紙を読み上げた。

『本日の件、全てセフィロス卿が仕組んだことであろう。証拠を残さなかったのはすばらしいことだな。お見合いの返事を延ばそうとするためだけにここまでやるとは、感心だ。今回の見合いの件は全て水に流そう。ただ、まだ俺はクラウドを諦めたわけではないからな。これだけは覚えておいていただこう。では、また挨拶に伺わせていただく』

「……だ、そうだ」

 俺は手紙をクラウドに渡して、煙草に火をつけた。

「ぼっちゃま、懲りないですねぇ」

 ザックスは半ば感心したように、息を吐き出した。俺もその執着心には尊敬の念を示したい。

「それだけクラウドにご執心ということだ」

 クラウドに視線をやると、困ったようにうつむいた。おおっぴらに執着心を見せているのがぼっちゃんだけであって、いろんな場所にクラウドにご執心の人はいるかもしれない。そういう人がいくら出てこようと俺はクラウドを譲る気は全くないのだが。

「まあ、これで今回の件は一旦落ち着いたわけだから、当分、ゆっくりさせてもらうとしよう。ザックスやクラウドを含め、屋敷の者に夏休みを再度支給する。好きに休むといい」
「さすが、旦那様!……と言いたいところですが…」

 一瞬喜んだ顔を見せたザックスはすぐに、いつもの神妙な面持ちに戻った。

「どうした?」
「また、留守中にぼっちゃまがお見えになったら、ややこしい話にならないかと思って心配なのでございます。クラウドへの執着心が消えていない間は、うかうかとお休みもいただけないのですが…」
「心配してくれるのはありがたいんだが、当分は大丈夫だろう。向こうも策を練る時間は必要だろう」
「そんな、のんきなことをおっしゃってると、また、今回の二の舞になりかねません」
「手がないわけではないんだが…」

 俺は大きく息を吐き出してから、煙草をもみ消した。クラウドがいいタイミングでグラスを差し出してくる。中には赤い液体が注がれていて、鼻腔を甘く刺激する。

「今は飲んでる場合じゃないでしょう! 手があるんでしたら、手を打っておきませんと!」
「……と言ってもな……」

 ぼっちゃんの執着心を封じ込める手が一つある。ただ、その手は俺一人の意志で実行できるものではなく、実行できたとしても、やはり、この屋敷は手放すことになるだろうし、みんながバラバラになる可能性も大きい。

「ザックスが休みの間にぼっちゃんがもし来たなら、その手を使うとするから、ザックスは安心して夏休みを取るといい。カワイコちゃんがザックスが来るのを待ってるかも知れないぞ」
「…どんな手かわかりませんけど、そこまでおっしゃるのでしたら、遠慮なくお休みさせていただきます。が!」

 ザックスは俺に向かって指を突き出した。雇い主の俺にいい度胸である。そこがザックスらしいところなので、気にはしていない。

「もし、本当に何かありましたら、すぐに連絡してください。いいですね!」
「わかった。約束しよう」
「では、数日お休みいただきます。他の者にもそう伝えてよいのですね?」
「ああ。ゆっくりしてくれ」

 ザックスはわかりました、失礼します、と頭を下げて部屋から出て行った。部屋には俺とクラウドが残った。

「クラウド」
「はい?」
「お前は休みはいらないのか?」

 クラウドは首を横に振ると、俺の横に静かに座った。クラウドの腕が俺の身体を包み込む。俺の胸に顔を埋めて、もう、お休みは頂きました、と言った。

「…いつ…?」
「私のわがままでこのお屋敷を空けたときです。だから、もうお休みは必要ありません。それよりも、セフィロス様のお側にいたい…」
「…好きにするといい…」

 寄り添っているクラウドのかすかな鼓動が伝わる。柔らかな髪に触れただけで、愛しさがこみ上げてくる。

「そういえば、セフィロス様がおっしゃってた、『打つ手』ってなんですか?」
「ああ、それは、クラウドの意志が大きくかかわるのでな、できれば使いたくない手だが…」
「私の意志?」
「そう、クラウドが同意するかどうかが大きなポイントだな」

 好奇心に満ちた眼を大きく開いて俺を見上げているクラウドが可愛くて、思わず抱きしめてしまう。

「セフィロス様?」
「ぼっちゃんが何かを言い出すより先に、できるならすぐにでも、結婚式を挙げてしまうってことだ」
「……誰と誰が?」
「え?」

 この話の流れからして、誰と誰が結婚式を挙げるかっていうのは容易に想像がつきそうなものだが、クラウドはきょとんとしている。本当にわかっていないのか、わかっていないフリをしているのか、判断つきかねる。
 俺が言葉をなくしていると、クラウドがくすくす、っと笑い始めた。

「…セフィロス様の驚いた顔はあまり拝見できませんから、ちょっと意地悪してみました」
「……一瞬どうしようかと思ったぞ」
「ごめんなさい。でも、私の意志でしたら、今更聞かれなくてもずっと決まっておりますのに」

 クラウドは俺に口付けると笑顔を見せて、こう言った。

「セフィロス様の花嫁なんて、最高に幸せ!」
「それはうれしいことだな」

 誰にも邪魔をされず、文句を言われることなく、クラウドは俺のものだと公言できるようになるわけだから、よく考えてみれば、素晴らしいことだ。
 クラウドは誰にも渡さない、という意思表明と同じことである。
 クラウドを抱きしめて、深く口付けを交わす。

「結婚式は決行するが、今、この時点でクラウドは俺がもらった。いいな?」
「もちろんです、セフィロス様…」

 頬に一筋の涙を流しながら、クラウドは笑った。

 二度とクラウドは泣かせない。

 クラウドが笑顔を見せていられるように、俺は何でもしよう。

 そう心に誓った。


END
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