Crazy a go go! [CASE:S] (5)
Crazy a go go! [CASE:S]

「クラウド……」
「申し訳ありません。立ち聞きするつもりはありませんでした。ただ、声をおかけするタイミングを失ってしまいまして…」
「まあ…いい。いずれ、誰の耳にも入ることだ……」

 俺が結婚するということをいきなり聞くよりはいいだろう。前もって知っていればショックも少ない……。
 誰がどういうショックを受けると、俺は思っているんだろう。クラウドはショックを受けると俺は思い込んでいるだけではないのか?

「旦那様! 返事の期限はいつですか?」

 ザックスが急に声を上げた。

「ちょうど1週間後だ」
「結論を出すにはまだ早いかと。決して後悔なさらないような結論をお出し下さい!」

 ザックスはクラウドに軽く頭を下げると、俺の部屋から足早に立ち去った。
 扉を閉じる音が荒々しいのは、ザックスの怒りを表しているのかもしれない。
 クラウドはその場に立ち尽くしている。

「クラウド…」
「お昼間は失礼いたしました。お客様の前でそそうをいたしました…」
「気にすることはない。わざとやったのはわかっていた」
「セフィロス様…」
「ザックスとクラウドのどちらがわざとひっくり返したのかまではわからなかったがな」

 クラウドは軽く頭を振った。

「セフィロス様は…本当に…何でもお見通しで……」
「クラウド?」
「私がひっくり返しました。あのカップにはお湯は入っていませんでした。お水でした。でも、カップを覗いたザックスさんが何かに気づかれたのでしょう。お芝居をしてくださいました」

 クラウドはスカートを握り締めている。その手に力が徐々に入り、肩が震えている。

「私は…あの場にいることに……」

 もしかしたら、クラウドはショックを受けてくれているのだろうか? 俺の思い込みだけではない、ということなのだろうか?

「でも、もう、大丈夫です。今のお話を伺って、納得いたしました。私は公爵様の元へ行っても大丈夫です」

 顔を上げたクラウドは、晴れやかな笑顔を俺に見せた。その笑顔は俺の心に鋭い刃を突き立てるようなものだった。えぐられるような痛みが身体に走る。

「クラウド!」

 きびすを返して部屋を立ち去ろうとするクラウドの腕を慌てて掴んだ。

「…離してください……」

 俺の腕を振り払おうをするクラウドの身体を無理やり引き寄せて、俺の方を向かせた。
 クラウドは俺の顔を見ようとはしなかった。

「クラウド!」
「…もう…、私には…かまわないで下さい…」
「それは、俺が結婚をすることを選んだからか? それでも俺はクラウドを…」
「セフィロス様!」

 クラウドは俺の言葉を遮ってから、ゆっくりと離れた。

「その続きは何をおっしゃるつもりなんですか? たかがメイドに何を?」
「俺はたかがなどと思ったことはない」

 クラウドは軽くため息をついてから、俺に背中を向けた。

「クラウド?」
「私は…夢を見てしまっていたようです。それがいつか現実になるかもしれない、とありえない夢を見ていたようです。でも、夢は夢でしかなかったことに気づきました」
「クラウドの夢…?」

 クラウドは扉を開けてから、ゆっくりと振り返った。
 そして、またも微笑を浮かべている。

「おやさしいセフィロス様。何もかもお見通しのセフィロス様。でも、今の私の気持ちは読まないでくださいませ」

 俺はもう一度、クラウドの腕を掴んだ。
 クラウドは俺に軽く口付けると、今までにないぐらいの笑顔を見せた。

「これ以上、夢は見たくないんです」

 俺の手を振りほどいて、クラウドは部屋から出て行った。
 そのクラウドを止める力は俺にはなかった。
BACK