Crazy a go go! [CASE:S] (4)
Crazy a go go! [CASE:S]

 俺は今までにないぐらいイライラしていただろう。
 ワイン1本空けるまでの所要時間は過去最短ではないだろうか。

「旦那様、よろしいでしょうか?」

 扉の向こう側から声がする。誰とも話す気がなかったので黙っていたら、ザックスは勝手に扉を開けて入ってきた。

「…勝手に入ってくるか?」
「急性アルコール中毒で倒れられては困りますから」
「……そんなにやわにできてはいない」
「そんな飲み方なさっていたら、嫌でも倒れそうですが」
「……いっそ、倒れてしまいたい……」

 俺はソファーに横になった。
 夢だったらきっとよかっただろう…。

「今晩は付き合いますから、ちゃんとお話を聞かせていただけますか? ぼっちゃんとの会話の内容を」
「そうだな。お前には話しておかないとな」

 横になっていた身体を起こして、ザックスのグラスを用意した。

「単なる見合いだったのだから、縁談は断ってやろうと思っていたんだが、条件を突きつけてきた」
「条件?」
「断ってもいいが、条件があるんだそうだ」

 話の内容を思い出しているだけで、腹が立ってくるので、側にあったタバコに火をつけた。

「縁談を断るのに条件?」
「ぼっちゃんの考えそうなことだろう? またこの条件が厄介なのだ!」

 俺はタバコを思い切りもみ消した。タバコに当たっても、何も解決はしないのだが、ぶつけどころがなくて、態度に出てしまう。

「つまり、結婚をしてもしなくても、旦那様にとってはいい状態にはならないと?」
「ならないだろうな。まず、もし仮にこの縁談を受けた場合、俺の元にクラウドは置いておきにくくなるのは目に見えている。つまり、俺はクラウドを手放してしまうことになるかもしれない。逆に、断った場合だが、これには条件があって、俺の領地全てがぼっちゃんの管轄下に置かれることになる」
「は? ぼっちゃんは買い占めるつもりですか?」
「さあ? どういう手段を使うつもりなのかはわからないが、とりあえず領地はぼっちゃんのものになるというわけだ」
「また、変な条件を……」
「さて、どうしたものか……」

 俺はグラスにワインを注いだ。すっかり空になっているザックスのグラスにも同じように注いでやる。

「旦那様、私は気になっていることがあるのですが?」
「何だ?」
「何を隠しているんですか?」
「…何も隠してなど…」

 ザックスはいつもにまして真剣な表情で俺を見ている。こういう時のザックスには嘘はつけない。とっくに嘘だということは見抜かれていて、大体内容も想像がついているはずだ。

「では、どうして悩んでいらっしゃるのです? 領地ぐらい手放して結婚を断ればよろしいじゃないですか? それをしない理由はなんですか? 断ってもクラウドは手元に残らないということなんじゃないですか?」
「…ザックスにはかなわないな。そうだ、どちらに転んでもクラウドは手元において置けない。そればかりか、断ってしまえば、ザックスやこの屋敷にいる人間全て失うことになるだろう…」

 ザックスは手を震わせながら、グラスをテーブルに置いた。

「…どういうこと…ですか……?」

 俺は大きく息を吐き出した。

「領地がぼっちゃんの手に渡る、それは土地だけを意味しているわけではない。土地の上にあるもの全てを意味している。だから、この屋敷もこの屋敷にいる人間も何もかも全て、ということになる。全てがぼっちゃんのものになるわけだ」
「…もしかして、それを避けようとしていらっしゃるのですか?」
「俺自身は別に領地が惜しいわけではない。土地ぐらいいくらでもやろう。屋敷も欲しいというならくれてやる。ただ、人間は別だ」

 俺はザックスに向かって、軽く微笑んだ。ザックスの顔色がみるみる変わっていく。額からだんだん下へ向かって青くなっていき、ザックスはまるで人形のようになってしまっている。

「何を心配している? ザックスはこの俺に仕えてきてくれてたんだ。それを踏みにじることはしない。この屋敷で働いている他のみんなもそうだ。ここで働いているみんなはありがたいことに、この俺のために働いてくれているわけだ。そんなみんなを簡単に手放せないし、ぼっちゃんの下へとやるわけにはいかない」
「そ、そんなことを心配しているんじゃないんです!」

 ザックスはテーブルを思い切り叩いて立ち上がった。

「旦那様、勘違いしないでください。私が恐れているのは、私を含めて他の人間のことではありません。もちろん、私達を守ろうとしてくださる旦那様のお気持ちはとてもうれしいのです。本当にありがたいことだと思います。でも、それを選択するということは、結婚を承諾するということですよね? 旦那様はみすみすクラウドを手放すということですか? それは、私を始め他のみんなが許すわけないです!」

 俺は息を吐き出すと、立ち上がってザックスの肩を叩いた。

「何が起きたとしても、俺はこの屋敷の主なんだ。主として間違ったことをしたくない…」
「それでこそセフィロス様ですわ」

 扉の方に視線をやると、クラウドがにっこり笑って立っていた。
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