想いの深さ (3)
想いの深さ

「社長、こんばんはー」
「こんばんは。元気にしていたか?」
「はい、元気です! お兄ちゃんも元気です!」

 クレフがニコニコ笑って言うのを、笑顔で聞いているのはルーファウスだ。会議のときの顔とは大違いだ、とセフィロスはふぅ、と息を吐いた。

「で、何があった? まさか、飛び出されるとはなぁ……」

 ルーファウスは驚いたような口ぶりだったが、顔は笑いをこらえているといった風で、目じりが下がっていた。

「立ち話もなんなので、店に入りましょう。個室を押さえました」

 店の前で大人二人が言い合ってるのも、店としてもいい迷惑だろう。
 ウータイ風とは少し違うが、色んな食材を使った料理が出てくるので人気の店である。大皿料理と点心と呼ばれる蒸し物料理が自慢だと入り口で謳っていた。
 通された個室の真ん中には円卓が置かれており、子供たちは珍しそうにくるくると回している。

「好きなものを頼むといい。お前は酒だな」

 ルーファウスはメニューを見ながら、紹興酒、がいいか、と尋ねてきた。

「いや、今は控えておきます。この後色々しなければいけないことがありますから」
「することなどないに等しいのに。さて、決まったか」

 メニューを見る子供たちにルーファウスはあれこれ教えている。

「社長、社長! 僕、金魚のやつ! あと、うさぎさん!」
「金魚? ああ、蒸し餃子だな。うさぎは後だ。これはおやつだから」
「お兄ちゃんはどうするの?」
「エビチリ。回鍋肉とか麻婆豆腐も欲しい」

 カインは即答で辛めの料理を注文している。
 双子でこれだけ食べ物の好みが違うと面白い。しかし、家の料理は二人とも文句を言わずに食べているのは、クラウドの料理が美味いからなのか、わざわざ味を変えているのか、のどちらかであろう。

「電話で依頼されたものは用意したぞ。これがキーだ」

 円卓を弄っている子供たちをよそに、ルーファウスは封筒をセフィロスに差し出した。

「お手数おかけしました」

 セフィロスは封筒を恭しく受け取って、上着の内ポケットにしまった。

「これぐらいはお安い御用だがな。ま、頑張ってクラウドを捕まえるんだな」
「居場所はわかってますので。クラウドが話を聞いてくれればすぐ済みます」
「貸しだぞ」
「承知しております。この借りはお返しいたします」
「臨時にプリン会議を開くから出席するように」

 はい、とセフィロスは頷いたが、プリン会議にセフィロスが出席したところで何の役にも立たない。甘いもの好きではないので、プリンなど口にしないのだから、意見を求められても答えられるわけがないのだ。
 失礼します、と食欲をそそる香りをまとった店員が入ってきた。
 円卓の上には注文した大皿料理と蒸篭が次々に並べられる。

「金魚、金魚♪」

とはしゃいでいるのはクレフだ。カインは大皿料理をじっと見つめている。どれから食べようか迷っているようだった。

「社長、社長」

 クレフの呼びかけに、ルーファウスは少し苦笑いを浮かべた。

「社長にも金魚あげるね」
「ああ、ありがとう」

 口では礼を述べているものの、表情が心なしか暗い。クレフはそれを感じ取ったのか、ルーファウスの顔を覗き込んでいる。

「社長、金魚嫌い?」
「いや、そういうわけではないんだ」

 クレフの頭を軽く撫でて、ルーファウスは笑顔を見せた。
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