想いの深さ (1)
想いの深さ

「だんな、持って帰らないのか?」

 セフィロスはその声に振り返って、ふぅと息をついた。

「ザックスか…」
「俺だと都合悪い?」

 ザックスは屈託ない笑みを浮かべて、近寄って来た。
 セフィロスとは昔からの馴染みで、何かにつけては仕事部屋に顔を覗かせる。

「相変わらず、だんなのとこは凄いな。これで全部?」
「……いや。一部だ」
「食べられないのにな」
「全くだ。そして、人に押し付けにくい……」

 机の上に並べられた紙袋の中身はすべて贈り物である。
 贈り物は有難いのだが、セフィロスとしては、純粋に喜べない品物ばかりだ。

「仕方ないよな、バレンタインデーだから」

 ザックスが肩をすくめて言うのに、セフィロスは憮然として頷いた。
 誰が決めたものなのかは知らないが、女性が男性に愛を告白する日だということぐらいはセフィロスも知っている。

「何故、その際の贈り物がチョコレートなんだ?」
「さぁ? だんなは嫌いでも可愛い奥様が食べてくれるからいいじゃねぇか」

 ザックスは『可愛い奥様』のところだけやたら強調して言った。
 セフィロスにとっては『可愛い妻』なわけで、ザックスが嫌味で言ったのだとしても、間違いない事実だから、否定はしなかった。
 その『可愛い奥様』は甘いものが好きで、家でもおやつはケーキだったり、和菓子だったりする。
 その点だけで述べれば、問題はない。

「…確かに食ってくれるが…」

 セフィロスは去年の部屋の状況を思い起こした。
 自宅には畳の敷かれたウータイ仕様の部屋が一つある。
 その床半分を埋めるほど敷き詰められ、セフィロスの背丈ほど積み上げられたチョコレートの箱。まさしく箱の山だった。

「……お前は我が家の状況を見てないから、そういうことが言えるのだ」
「大体想像はつくけど…。よく考えたら、そのチョコレート、全部クラウドの胃の中に収まったわけ?」

 そうだとしたら、クラウドがあの体型を維持できているのは脅威的だと思う。

「確認しておこう。今年も多分同じ状況だろうからな」
「じゃあ、また明日!」

 ザックスが片手を軽く上げて立ち去ろうとするのを、セフィロスは呼び止めた。

「こら、一体何しに来たんだ?」
「チョコレートの確認」
「……してもらわなくていい」
「ちゃんと持って帰れよ。エアリスに怒られないように」

 エアリスは何でもお見通しで、迂濶な行動に出ると、何を言われるかわからないし、最悪、抹消されかねない。
 クラウドが絡むとエアリスは容赦ないのだ。

「わかってるさ。じゃあな」

 セフィロスは紙袋を両手に持つと、自室を後にした。
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