想いの深さ (2)
想いの深さ

「ただいま」

 玄関の扉を開けると、おかえりなさーい、の言葉とともに元気よくクレフが駆け寄ってきた。
 金髪でクラウドとそっくりなクレフは双子の弟のほうだ。いつもにこにこ笑顔で誰にでも好かれる優しい子だ。

「クレフ、その口はどうした?」
「え? 何かおかしい?」
「口の周りが茶色いぞ」
「それは、チョコレート」

 クレフの後ろから声がして、セフィロスは視線をそちらに移した。セフィロスの子供のころにそっくりなのは双子の兄のほうだった。

「カイン、この時間におやつは遅くないか?」
「お父さんのせいだよ」

 カインは頭を軽く振った。セフィロスと同じ銀色の髪が揺れる。

「俺?」
「お母さんからのお達し。今日はご飯はチョコレートだって。お父さんは帰ってきたら畳の部屋に来て、とのこと」
「何かあったのか?」

 バレンタインにチョコレートが届くのは毎年のことであるし、そのことにはクラウドも慣れているはずだ。

「何か、決定的なものがあったんじゃない?」
「心当たりはないがな」

 セフィロスの胸の中には言いがたい不安のようなもやもやした気分が広がっていた。





「クラウド?」

 セフィロスは畳の部屋の入り口になっている襖をそっと開いた。
 中にはクラウドが座っていて、振り返りながら、ああ、お帰り、とにっこり笑った。
 クラウドの後ろには、やはり去年と同じく、チョコレートと思しき箱が積み上げられている。

「そこにお座りくださいな」
「はぁ……」

 言われるがままセフィロスは正座した。

「今日のセフィロスの晩御飯はこれです」

 そう言ってクラウドが目の前にすっと差し出した箱は誰がどう見ても、中身は明らかだった。
 ゴシック調の模様の描かれた深紅の箱に紅いリボン。小さなメッセージカードも添えられている。配送のときに包まれていたのであろう包装紙も一緒に並べられた。

「…食べられないのをわかっていて、差し出してるんだろうな?」
「でも、これは俺が食べるわけには行きません。セフィロスへの深い深い愛がこもっています。ちゃんと、受け止めてあげてください」

 クラウドはすっと立ち上がると、頭を下げた。

「これから実家に帰らせていただきます!」
「…実家…? 実家ってお前……」
「わかってるよ!」

 逆ギレされても困る、と内心でつぶやくセフィロスに続いて浴びせられた言葉はさらにセフィロスを困らせた。

「だから、セフィロスの嫌いな場所に行ってきます。じゃあ、ごきげんよう!」
「ごきげんようって、クラウド!」

 セフィロスの横を通りすぎ、クラウドは部屋から出て行った。
 クラウドが怒っているときはどうなだめても話を聞こうとしない。それを承知しているセフィロスは、ただ息を吐き出して、差し出された箱と包装紙を手に取った。
 玄関先で子供たちとなにやら話している声がしているが、何を話しているのかはセフィロスには聞き取れなかった。
 やがて、話し声は消えて、家の中に静けさが広がる。
 そんな中、メッセージカードと包装紙を眺めつつ、セフィロスは記憶を巡らせた。

「キャロルねぇ……、あ、そうか。そういうことか……」

 思い当たったセフィロスは笑いがこみ上げてきた。くく…っと笑い続けていると、お父さん、お父さん、と呼ぶ声が聞こえてきた。

「お父さん、笑ってる場合じゃないよ」

 カインが畳の部屋に入ってきて、セフィロスの腕を掴む。

「いや、大丈夫だ。お母さんの行き先もわかる。だから安心していい」
「ホントに?」
「ああ、本当だ。まずは腹ごしらえでもするか。クレフと一緒に出かける用意をして来なさい」
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