ONLY YOU(1)
ONLY YOU

 この頃、セフィロスの様子がどうもおかしい。
 何だかコソコソしているように見える。本人にそのつもりはないのかもしれないが、態度がいつもと少し違う。
 普段は読まないような情報雑誌を真剣に眺めていたり、一人で、ああっ、とか言いながら頭を抱えてたりする。
 今日もソファーに座って、何か雑誌を眺めている。隣に座って、雑誌を確認してやろうと覗き込んだ途端、雑誌をバタンと勢いよく閉じられた。
 俺に見られなくないなら、ここで読まなければいいのにと思う。これ見よがしに読んでたくせに。

「クラウド」
「何?」

 俺はホットミルクがなみなみと入ったマグカップを両手で抱えて、冷めるように息をかけながら、尋ねた。

「14日は配達か?」
「14日? うん、配達だよ。ホワイトデーだから、な」
「そうか。そうだろうな」

 セフィロスは一人納得したようで、テーブルにあった洋酒の入ったグラスを掴むと、一気に飲み干した。惚れ惚れするような飲みっぷり。洋酒をストレートで飲んで、回らないってどういう肝臓してるんだろうな。

「…配達に行ったらまずいとか?」
「いいや。クラウドはクラウドの仕事をすればいい…」

 グラスをテーブルに戻してから、セフィロスは腕を組むと、ソファーに背中を預けて、天井を見上げた。天井を見上げたまま、何も言わない。考え事してるんだろうけど、こんな大げさに考え事することなんてないから、少し心配になる。

「セフィロス…」

 袖をくいくいっと引っ張ると、セフィロスは天井から俺に視線を移した。

「どうした?」
「…なんか、言いたいこととか…ある?」
「別にないが…」
「そうか…」

 テーブルの方に向き直って、マグカップを降ろす。明らかに様子は違うのに、その原因に俺は思い当たらない。セフィロスはあんまり自分の気持ちを外に出すことがないから、いつもと違う様子の時は特に心配になるんだけどな。

「クラウド…」
「な…っ!」

 何、と尋ねるより先に後ろから抱きしめられた。

「どうしたんだよ?」
「…別に…」
「別に、が多いな」

 苦笑して、俺を抱きしめるセフィロスの手に触れる。セフィロスはさらに俺を強く拘束する。俺に甘えてくるということは、もしかしてそろそろ、なのだろうか。

「…そう言えば…、もう、辛いのか?」
「…今月は…マシなほう…だろうな…」

 セフィロスは15日になると、スイッチが切れたようにボンヤリして動かなくなる。まるで子供のようになって、甘えたりする。
 それは15日までの一か月間の疲れ度合いに比例するようだ。フルに頭を使ったり、働いたりした場合は、それはもう驚くほどに動かないし、べったり甘えてくるのだ。ただ、15日にいきなり動かなくなるわけじゃなくて、15日に近づくにつれて、徐々にボンヤリする回数は増えていく。
 まだ、今月はマシなほうということだから、仕事が詰まっていたということもないのだろう。

「…大丈夫か?」
「まあ…、普段通りの生活に支障はないだろう…。来月は休むさ…」
「明日、俺がいなくても大丈夫か?」
「…明日…、ああ、明日が14日か……、14日……」

 セフィロスはそこで一度無言になった。しかし、すぐに、何かを思い出したように、バタバタっと寝室の方へと向かった。

「何だろう。14日に何かあるのか? ホワイトデー以外に…」

 マグカップのホットミルクを飲みきってから、俺は寝室へと向かった。



 ベッドの上ではセフィロスが上を向いてじっとしていた。天井を眺めたままだ。

「セフィロス…」

 ベッドに上って、セフィロスの顔を覗き込む。俺と目を合わせて、セフィロスはあのな、と話を切り出した。

「何?」
「…反則だとわかってるが…」
「反則?」
「そう、反則だ」

 セフィロスはくるりと向きを変えて、俺に背中を向けた。
 俺に言いたいことがあるのに、俺の顔を見ないってどういうことだ。

「…こら、話があるんだろう?」
「そうだな…」

 セフィロスが小さく頷いて、さらさらの銀髪がベッドの上に流れる。
 圧倒的な強さを持っていて、それでいて、みんなが目を見張るほどの美貌の持ち主。誰もが恐れ、憧れている人間。それがセフィロスと言ってもいいんだけど、ここにいるセフィロスは子供みたいだ。

「…セフィロス…、言いたいことははっきり言え」
「反則だが、許されるか?」
「許すも何も、何を反則だと言ってるのかわかんないからな。言ってみてくれないと」

 セフィロスは息を吐き出したのか、肩が大きく揺れる。
 自分で反則だとか言い出しておいて、いざ、言うとなると躊躇うとはな。いや、自分の意思を俺みたいに率直にぶつけるような人じゃないから、意志を上手く言葉にできないだけなのかもしれない。言葉を選んでいる最中の可能性はある。
 俺はしばらく待ってみることにした。
 セフィロスの隣に寝転がって、背中を眺める。普段はがっしりとして、大きく広く見える背中も、今日は普段よりも心なしか狭く見える。きっと、今は俺が受け止めてあげる番なんだろう。

「…なぁ、セフィロス…」
「…ん?」
「反則だってセフィロスが考えてるだけだろ。俺は反則だと思わないかもしれないし、何が聞きたいんだよ」
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