ONLY YOU
「ホワイトデー…」
「ホワイト…デー?」
セフィロスはそう、と言いながら、身体を回して、俺と向き合う体勢になった。セフィロスの眼にいつものような力がない。
「…何が欲しい…?」
「…ん? そうだなぁ……」
俺は今ちょうど欲しいものを考えてみた。
バイクに乗るときのグローブが摩耗してきてるし、ブーツの底もちょっとヤバそうだ。春先にかけて着られるジャケットも新しいのが欲しいし。
「いっぱいあるけど…どうしようかな……、って、あれ?」
反則だと思ってたことって…。もしかしなくても。
俺はセフィロスの頬を軽く叩いた。
「こらこら、考えすぎだ。案外、神経質だったのか?」
「俺は…」
「欲しいものを聞くなんて、サプライズ要素がなくなるから反則?」
「……だと思っていた…」
「俺に限って言えば、別に反則でもなんでもないよ」
それに俺はあれが欲しい、これが欲しいとセフィロスに向かって言うことが少ないから、欲しいものがわかるなんて思ってはいない。
お互いのことを感じ取ることは出来るけど、心の奥底までは読み取れない。読み取れるなら、セフィロスは俺に反則だなんだかんだと言わず、プレゼントを用意することができるだろう。
「…そうか…」
「そうだよ。だから、俺にグローブをちょうだい。バイクに乗るとき用の」
「…そんなもので…?」
「そんなものとは言うけど、結構大事なんだぞ。バイクに乗る者にとっては」
セフィロスはなるほど、と頷いた。
「じゃあ、よろしくね」
セフィロスの肩を叩いて、そう言うと、不安が取れたのか、セフィロスは軽く笑った。
「はいはい、この話は終わり。早く寝ろよ」
俺はセフィロスの頭を抱えるようにして、しっかりと抱きしめた。セフィロスは肩を揺らしたが、すぐに俺にひっついてきた。
あやすように頭を撫でながら、おやすみ、と囁く。
セフィロスは無言で首を動かしてから、俺の肩に頭を預けてくる。甘えっぷりが増してきてるようだな。
こんなセフィロス見られるのも俺だけの特権だから、悪い気はしない。
「セフィロス…?」
小さく呼びかけてみても返事がない。普段なら眠ったにしても眠りが浅いので、俺の呼び掛けにはすぐに答えたりするんだけど、もう、すっかり眠ってしまったのだろう。
俺はそんなセフィロスの耳元で届くはずもない言葉を呟いた。
「本当に欲しいのは、何よりも欲しいのは、セフィロスなんだよ」
次の日、つまり、14日の朝、セフィロスはいつも通りに家を出て行った。午前中にはどうしても抜けられない仕事があるらしい。
多分、社長にホワイトデーの期間限定ショップへと連れて行かれることになっているのだと思う。
社長の意図がわからん、と出かける間際にぶつぶつ言ってたので、社長が絡んでいることは間違いない。
まったく、社長も何が楽しくて、嫌がるセフィロスを連れて歩くんだろうなぁ。
「俺も、配達に行くかなぁ…」
ホワイトデーなので、お届け物が普段よりも多い。差出人の想いを受取人に届けるべく、今日は一日バイクに乗りっぱなしになるだろう。光栄な仕事ではある。幸せを運ぶお手伝いだ。
配達道具一式が詰まった鞄を肩から斜め掛けにして、家を後にした。
数件のお宅を回って荷物を回収し、お届けに行くついでに、また別の荷物を回収したりと、今日はやっぱり慌ただしい。効率よく回らないと日が暮れてしまう。
お腹が空いてきた気がして、携帯電話を確認すると、もう、お昼の時間だった。
「…お昼食べに、市街地に戻ってる時間はないか…」
配達ルートのメモを見つつ、予定を立ててみる。市街地に戻ることにはなりそうだから、少し遅めのお昼にすることにして、バイクを走らせようとした。
そこへちょうど携帯への着信があった。発信元は知らない番号だった。
「はい?」
『…クラウドか?』
受話器から聞こえるのは普通の声ではなかった。何か機械を通して、声を変えている。
「知らないやつに呼び捨てにされる覚えはないがな」
『セフィロスを預かった…』
「頼んだ覚えはないけど」
『頼まれてないが、勝手に預からせてもらった』
「じゃあ、今日中に返しておいて」
『ちょっと待て、そう言うわけにはいかない』
「目的は?」
受話器の向こう側が無音になった。
目的なく誘拐なんてありえないと思うんだけども。
セフィロスがお金持ちってことは大概の人は知ってるだろうから、お金を要求するのが一番妥当だと思う。次に身体かな。肉体労働をさせたいということじゃなくて、繋がりたいってことだろう。まあ、あの顔であの体格だったら、狙われてもしょうがないか。とはいえ、そう簡単に誘拐などできるはずもないんだけど。
…いや、今日と明日だったら、出来る可能性があるのか。いいタイミングでセフィロスと出会っちゃったんだろうな。
「で、目的とか要求とかないなら、切るよ。俺も忙しいから」
ま、まて、と焦った声が聞こえて、俺は切るのをやめた。
「…じゃあ、何が目的だ?」
『社長に…』
「社長?」
『…社長に…会わせてもらいたい…』
「社長ってどこの社長?」
「ホワイト…デー?」
セフィロスはそう、と言いながら、身体を回して、俺と向き合う体勢になった。セフィロスの眼にいつものような力がない。
「…何が欲しい…?」
「…ん? そうだなぁ……」
俺は今ちょうど欲しいものを考えてみた。
バイクに乗るときのグローブが摩耗してきてるし、ブーツの底もちょっとヤバそうだ。春先にかけて着られるジャケットも新しいのが欲しいし。
「いっぱいあるけど…どうしようかな……、って、あれ?」
反則だと思ってたことって…。もしかしなくても。
俺はセフィロスの頬を軽く叩いた。
「こらこら、考えすぎだ。案外、神経質だったのか?」
「俺は…」
「欲しいものを聞くなんて、サプライズ要素がなくなるから反則?」
「……だと思っていた…」
「俺に限って言えば、別に反則でもなんでもないよ」
それに俺はあれが欲しい、これが欲しいとセフィロスに向かって言うことが少ないから、欲しいものがわかるなんて思ってはいない。
お互いのことを感じ取ることは出来るけど、心の奥底までは読み取れない。読み取れるなら、セフィロスは俺に反則だなんだかんだと言わず、プレゼントを用意することができるだろう。
「…そうか…」
「そうだよ。だから、俺にグローブをちょうだい。バイクに乗るとき用の」
「…そんなもので…?」
「そんなものとは言うけど、結構大事なんだぞ。バイクに乗る者にとっては」
セフィロスはなるほど、と頷いた。
「じゃあ、よろしくね」
セフィロスの肩を叩いて、そう言うと、不安が取れたのか、セフィロスは軽く笑った。
「はいはい、この話は終わり。早く寝ろよ」
俺はセフィロスの頭を抱えるようにして、しっかりと抱きしめた。セフィロスは肩を揺らしたが、すぐに俺にひっついてきた。
あやすように頭を撫でながら、おやすみ、と囁く。
セフィロスは無言で首を動かしてから、俺の肩に頭を預けてくる。甘えっぷりが増してきてるようだな。
こんなセフィロス見られるのも俺だけの特権だから、悪い気はしない。
「セフィロス…?」
小さく呼びかけてみても返事がない。普段なら眠ったにしても眠りが浅いので、俺の呼び掛けにはすぐに答えたりするんだけど、もう、すっかり眠ってしまったのだろう。
俺はそんなセフィロスの耳元で届くはずもない言葉を呟いた。
「本当に欲しいのは、何よりも欲しいのは、セフィロスなんだよ」
次の日、つまり、14日の朝、セフィロスはいつも通りに家を出て行った。午前中にはどうしても抜けられない仕事があるらしい。
多分、社長にホワイトデーの期間限定ショップへと連れて行かれることになっているのだと思う。
社長の意図がわからん、と出かける間際にぶつぶつ言ってたので、社長が絡んでいることは間違いない。
まったく、社長も何が楽しくて、嫌がるセフィロスを連れて歩くんだろうなぁ。
「俺も、配達に行くかなぁ…」
ホワイトデーなので、お届け物が普段よりも多い。差出人の想いを受取人に届けるべく、今日は一日バイクに乗りっぱなしになるだろう。光栄な仕事ではある。幸せを運ぶお手伝いだ。
配達道具一式が詰まった鞄を肩から斜め掛けにして、家を後にした。
数件のお宅を回って荷物を回収し、お届けに行くついでに、また別の荷物を回収したりと、今日はやっぱり慌ただしい。効率よく回らないと日が暮れてしまう。
お腹が空いてきた気がして、携帯電話を確認すると、もう、お昼の時間だった。
「…お昼食べに、市街地に戻ってる時間はないか…」
配達ルートのメモを見つつ、予定を立ててみる。市街地に戻ることにはなりそうだから、少し遅めのお昼にすることにして、バイクを走らせようとした。
そこへちょうど携帯への着信があった。発信元は知らない番号だった。
「はい?」
『…クラウドか?』
受話器から聞こえるのは普通の声ではなかった。何か機械を通して、声を変えている。
「知らないやつに呼び捨てにされる覚えはないがな」
『セフィロスを預かった…』
「頼んだ覚えはないけど」
『頼まれてないが、勝手に預からせてもらった』
「じゃあ、今日中に返しておいて」
『ちょっと待て、そう言うわけにはいかない』
「目的は?」
受話器の向こう側が無音になった。
目的なく誘拐なんてありえないと思うんだけども。
セフィロスがお金持ちってことは大概の人は知ってるだろうから、お金を要求するのが一番妥当だと思う。次に身体かな。肉体労働をさせたいということじゃなくて、繋がりたいってことだろう。まあ、あの顔であの体格だったら、狙われてもしょうがないか。とはいえ、そう簡単に誘拐などできるはずもないんだけど。
…いや、今日と明日だったら、出来る可能性があるのか。いいタイミングでセフィロスと出会っちゃったんだろうな。
「で、目的とか要求とかないなら、切るよ。俺も忙しいから」
ま、まて、と焦った声が聞こえて、俺は切るのをやめた。
「…じゃあ、何が目的だ?」
『社長に…』
「社長?」
『…社長に…会わせてもらいたい…』
「社長ってどこの社長?」