ONLY YOU(4)
ONLY YOU

「携帯に電話してみたら、普通に出たそうだ。ただ、ぼーっとしてたらしいがな」
「まあ、そうだろうな。そろそろ本格的にぼんやりしそうだし、早くこちらに引き取った方がよさそうだ」
「では、指定の場所に行くとしようか」

 社長の後ろについて、俺は社長室から出て行った。



 カフェに着いたところで、俺の携帯が震えはじめた。発信者は例の相手だ。

「どこにいる?」
『窓際の…赤いソファー…です…』

 あれ? 機械音じゃないな。しかも、怯えてるようなか細い声だ。女性だったのか、犯人は。

「わかった。社長に行ってもらう。で、セフィロスは?」
『セフィロスさんはお隣のビルのパティスリーにいると思います。クラウドが好きなお店だと言って動きませんでしたので…』
「わかった。社長がそちらに行ったら電話を切ってくれ」
『わかり…ました…』

 入り口傍に置いてあるケーキのショーケースを眺めている社長に声をかけた。

「ん? 窓際の赤いソファー? あ、あの女性か?」
「そう。あの人が犯人らしい。社長と話をしたい人らしいから、優しくな」
「セフィロスを誘拐した件についてはどうするんだ?」

 俺は軽く肩を竦めた。

「俺は別に何も言うつもりはないよ。セフィロスは無事みたいだし、俺から取ろうということでもないようだし」
「…ま、詳しいことは後日教えてやる。早くセフィロスを迎えに行くんだな」
「そうするよ。申し訳ないけど、後はよろしくお願いします」

 右手を上げてから、ルーファウスは窓際の席へと向かった。女性はいきなり立ち上がって、ぺこぺこと頭を下げている。その後、電話が切れたので、俺は急いで隣のビルへと向かった。
 息を切らせて辿り着いたパティスリーの前にはセフィロスが立っていた。お店の中を覗いては、んー、と困った顔をしている。何だろう、中に入りたいのか、そうでもないのか。

「セフィロス!」

 セフィロスはゆっくりと俺の顔を見た。すぐに、笑顔になる。普段では見せないような、まるで子供がおもちゃをもらった時みたいな笑顔だ。

「中に入りたいのなら、入ろう。お店の人も困ってるよ」
「…クラウドがいるのかと思って…」
「入らなくてもいいのか? いいのなら、移動しよう」

 セフィロスはいい、と言ってから、俺の腕を掴んできた。

「何?」
「…迷惑…かけた…か?」
「迷惑なんてかけられてないよ。お腹空いてる?」

 首を横に振るセフィロスは目に力がない。立ってるのにかすかに揺れている。俺の腕を掴んできたセフィロスの手を解いて、その手をぎゅっと握りしめる。

「そうか。本当は立ってるのも辛いだろ? うちに帰るって言っても、セフィロス、車運転できないだろうし、近くのホテルに泊まろうか」

 何も言わないセフィロスの手を引っ張って、俺はホテルの方面へと足を進めた。
 神羅のホテルで神羅の社員ならば割引がきくホテルがある。セフィロスなら多分顔パスだし、すぐに入れてもらえるだろう。もちろん、満室でなければ、の話だけど。
 ベルボーイの立つ高級感漂うホテルの入り口を入り、フロントへと向かう。
 フロントの人間はもちろんのこと、ロビーにいるお客さんみんなの視線が俺たちに集まっているのをひしひしと感じながら、フロントの係と部屋の交渉に入った。

「一部屋空いてますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ツインのお部屋でしょうか?」
「…そうですね、二人なので……」
「かしこまりました、少々お待ちを……」

 そうフロント係が言った直後、セフィロスがいきなり俺の前に出てきた。そして、空室の状況を調べているフロント係に向かって、一番いい部屋、と言い放ったのだ。

「ちょ、ちょっと、セフィロス!」
「一番いい部屋。空いてないのか?」

 俺の言葉を無視して、フロントと会話を続けようとする。さっきまでのセフィロスは口をきくのさえも辛そうだったのに、何がセフィロスをそうまでさせてるんだろう。
 俺はセフィロスと二人眠ることが出来さえすれば、別に問題はないのに。
 フロント係はセフィロスを目を合わせて、すぐに、大変失礼しました、と頭を下げた。すぐさま、空室の状況を調べ直しにかかっている。セフィロスはそのまま動こうとはしない。仕方ないので俺はそのまま後ろで待つことにした。

「お待たせいたしました。お部屋をご用意させていただきました。このキーをお持ちください」

 フロント係の声にセフィロスは頷いてから、後ろを振り返った。

「行くぞ、クラウド」
「あ、う、うん」

 俺の手を引くセフィロスはいつもと変わらないぐらいきびきびとしていて、凛々しく歩いている。
 なんだ、大丈夫なのか?
 エレベーターに乗り込み、セフィロスは最上階のボタンを押す。確かこのホテルの最上階はスイートルーム一部屋じゃなかったか。
 エレベーターの扉が閉まり、エレベーター内にあるデジタルの階数表示が上がっていく。高層ホテルだから最上階までは少し時間がかかるようだ。

「なぁ、セフィロス…」
「んー?」

 セフィロスはいきなり俺に抱きついてきた。俺は思わず周りを見渡したが、俺たちしか乗ってなかったことに気づいた。

「セフィロス?」

 呼びかけても返事はない。フロントとの応対だけ、何とか気力を振り絞ったのだろう。

「疲れてるのに、疲れることするからだよ。部屋に着くまで、もうちょっとだから」
「んー」

 俺はセフィロスの頭を抱えるようにして、ポンポンとあやすように叩いた。ぎゅっと抱きついてくるセフィロスが本当に子供が甘えてきているようで、思わず顔がにやけてしまう。誰もいなくて本当によかった。
 最上階に着いたことを告げるポーンという音に俺は反応して、扉の方を見た。セフィロスは気にした様子もなく、俺にひっついたままだ。さすがにセフィロスを抱っこして、移動するのは無理だぞ。

「ほら、部屋まで行くよ。部屋についたら、いくらでもひっついてもらっていいから」

 ん、とセフィロスは頷くと、俺から離れて、さっさとエレベーターを降りて行った。
 絶対、今にも倒れそうなはずなんだよ。様子を見てればわかる。伊達に長年一緒にいるわけじゃない。でも、今はさっさと廊下を歩き、突き当たりにある扉のロックを解除している。そんなセフィロスの姿は、まるっきり普段と変わりないから、嘘みたいだ。
 俺の些細な言葉で、これほどまでの気力が取り戻せるってことは、俺は自惚れてもいいのかな。
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