ONLY YOU(9)
ONLY YOU

「クラウド」
「え? 何…?」
「箱の中身を透視しようとしてるのか?」

 セフィロスは怪訝な顔で俺にそう言った。
 出来るもんでもないし。セフィロスなら出来そうな気もするけど。

「…そういうわけじゃないよ。あ、開けてもいい?」
「どうぞ。クラウドのために買ってきたんだ」

 俺はリボンをほどいて、包装紙を丁寧に開き、中に入っていた黒い箱を色々な角度から見てみた。箱の表面には何も書かれていない。
 箱の蓋をゆっくりと開けて、中身を確かめる。

「…手袋…?」
「まあ、そうだな。バイクに乗るとき用」
「そういえば…」

 ホワイトデーのプレゼントが何がいいか聞かれて、グローブが欲しいって言ったな、確か…。
 それをセフィロスは覚えてたのか。

「よく、覚えてたな…」
「当たり前だ。クラウドのことだからな。忘れるわけがない」
「はぁ?」

 思わず驚きが声に出てしまった。
 セフィロスの記憶回路ってどうなってるんだよ。
 グダグダデーの辛い時期だから、そういうことは覚えておけないと思ってた。

「いいか。何度も言ってるように、俺の一番大事なもの、こと、優先順位が一位なのは、クラウド、お前だからな」

 セフィロスの目が俺を射貫く。
 鼓動が急に早くなって、手が震え出した。嬉しさが全身からこぼれだしそうなのに、それを言葉にして伝えられない。
 どうしたらいいのかもわからなくなった。

「クラウド」

 セフィロスは心配したのか、俺の前に立って、顔を覗き込んできた。

「…あ、ありがとう…」

 お礼の言葉一つ言うのが精一杯だった。
 肝心な時に肝心な言葉が言えないなんて。
 俺の頭を軽く叩いて、セフィロスはふわりと柔らかく笑う。
 ああ、どうしようもないぐらい、好きだ!
 そんな思いに突き動かされるように、俺はセフィロスに抱きついた。セフィロスの鼓動が感じられるぐらいにひっつく。
 セフィロスの側にいられて、セフィロスに触れられる幸せをしっかりと噛みしめた。



「その節はありがとうございました」

 俺は白いスーツの男に向かって、深々と頭を下げた。

「いいや。俺は何もしていない。単に話を聞きに行った、それだけだ」
「それだけのことをわざわざしていただいたわけですから…」

 そう告げると、男は首を横に振った。その後、軽く手を上げて、通りかかったウエイトレスに何かぼそぼそと告げている。
 先日のセフィロス誘拐未遂(未遂でもないか)の時のお礼を言おうと、俺は神羅ビル近くのカフェに目の前の男、つまり、神羅の社長を呼び出した。
 社長は二つ返事で、俺の指定した場所に一人で現れ、店内の視線を集めているが、当の本人は気にしていないらしい。

「…別に嫌だったとか、億劫だったわけではないのだから、わざわざというのはおかしい。いいではないか、セフィロスは無事にお前の元に戻ったのだから」
「でも…」
「でももへったくれもない。元々の原因はお前ではないじゃないか。お前が原因を作ってこうなったわけではないのだから、気に病む必要はない」

 確かに俺がこの事件を引き起こしたわけではないし、社長まで巻き込むことになってるとは思わなかったんだ。
 思わなかったから、謝罪しなくていいという問題でもないと思う。結果的には巻き込んでしまってるのは、明らかだ。

「お忙しいところ、時間を割いていただいたわけですし」

 社長は大きく息を吐き出してから、先ほど運ばれてきたコーヒーに口をつけた。

「そうか。最後まで話を知らないから、俺に迷惑をかけたと思ってるんだな。俺にとってはとても有意義な時間となったのだ。むしろ、感謝したいぐらいだな。こんな機会をもらったことに」
「よくわかりませんが…」
「次のプリンの新作は間違いなく今のを上回る素晴らしい物が出来上がりそうだ」

 ということは、もしかしたら、俺が社長を呼び出すためについた嘘が本当になったってことか?

「社長、プリンについて、本当に話をしたのか?」
「さぁな。内容についてはトップシークレットだ。セフィロスの件も絡んでいることだしな」

 そもそもはセフィロスを誘拐した女の子は社長に会いたいという理由で、事を起こしたはずだ。社長に会いたい理由が本当にプリン談義をしたかったということなのだろうか。
 それなら、普通に面会すれば済む話だと思う。プリンのことだったら、すぐに了承してくれそうなもんだ。

「…俺は知らない方がいいということか?」
「知らなくてもいいことだろ? どこかの企業の社長がプリン好きの女性と話したことなど。それに、セフィロスのためにもな」
「セフィロスは誘拐されただけじゃなかったのか!」
「落ち着け! 声が大きい!」

 社長に戒められて、俺は慌てて、座り直した。勢いで立ち上がってしまっていたのだ。

「言い方は悪いが、セフィロスは誘拐されただけだ。それも俺に会うために使われたんだ。ただ、当のセフィロスはそんなことに巻き込まれたなどこれっぽっちも思ってないだろうし、覚えてもいないだろう。だから、クラウドも知らないでいたほうがいい。クラウドだけが知っているとなると、詮索された時に、知らないふりができない」
「セフィロスが、詮索?」
「してくるかどうかは俺にもわからん。14日の記憶がまるっと抜けてるだろうからな。気にはなってるんじゃないか? 知らないことがあるのが気に入らないタイプだろう?」

 毎月訪れる14日前後の対処方法はセフィロス自身も学んでいることだろうし、今までその日に何をしていたかなんて、聞かれた事はない。

「さぁ、どうだろう。もし、聞かれたときには俺も知らない、って言っておくよ」

 俺は立ち上がると、深く頭を下げた。

「では、失礼します」
「ああ、セフィロスによろしく」
「今日も会うでしょう?」

 セフィロスは社長の部下であるのだから。

「会わずに済ませようとするのでな、奴は」
「一応、伝えておきます。では」

 社長は軽く手を上げるだけで、何も言ったりはしなかった。



「ただいま」

 誰もいないと思っていたのに、お帰り、という声が玄関に響いた。
「…セフィロス、もう、帰ってたのか…」
「ヒマだったから」

 社長は俺と会ってたので出かけてたし、俺が店を出た後、様子を伺うと、電話してたようだから、きっとそのまま仕事をしていたんだろう。

「…そう…」

 靴を脱いで、セフィロスの横を通り過ぎようとしたところで、腕を掴まれる。

「俺は聞いてないことがある」
「何、いきなり?」
「14日、俺は何をしていた?」
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