父の日
父の日

 こういう時はどんな言葉をかけても、どれも正解にはなりえない。
 長い間一緒にいて、学んだこと、というかわかったことだ。
 俺がクラウドを理解しきれていない、と言えばそうかもしれないが、クラウド自身がはぐらかすことも多い。
 俺は黙ったまま、クラウドの様子を伺った。
 しばらく俯いていたが、何か思い出したかのように、急にテーブルの上に手を伸ばした。
 手を伸ばした先にあるものに気づいた俺は、とっさにクラウドの目当ての物を奪い取った。

「…なんだよ、ちょっと見ようと思っただけだ」
「あと一枚残ってる」
「だろうな、俺の分だ」
「そう、クラウドの分」

 俺は封筒の中から券を一枚取り出すと、じっくりと眺めた。
 別に子供達のものと何ら変わりはない。クラウドの字というわけでもない。

「眺めてなくていいよ、さっさと使え!」
「いや、ちょっと待て!」

 俺の手から券を奪い取ろうとクラウドが横から手を伸ばしてきて、その手から避けるように身体を後ろに反らせたところで、俺はソファーにそのまま倒れ込んでしまった。上からはクラウドがのしかかってくる。
 身体を起こそうとしたが、クラウドは俺の肩を押さえつけてきて、動きを封じてくる。仕方なく、クラウドの動きを待つことにすると、クラウドは俺の顔をじっとみつめたまま、俺の手からそっと封筒を取って、使うよね?と念押ししてきた。

「…使わない、っていう選択肢はないんだろう?」
「わかってるじゃないか」
「カインみたいに、物理攻撃は勘弁してくれよ」
「…しないよ、そんなこと」

 クラウドは俺の上から降りると、俺にも立つように促してきた。

「…では、魔法とか?」
「何でそうなるのかわからないんだけど?」

 クラウドは憮然とした表情を見せるけれど、一緒に腰砕き券を作ったわけではないのか?

「この封筒の中に入ってる券の字面からすると、そう考えてしまうのは普通だと思うんだが」
「でも、クレフは砕かなかっただろ?」
「…まあ、確かに、そうだな」
「だろ? じゃ、これは使うと言うことで。ほら、早く立って」
「…立つのか?」
「そ、場所移動するよ」

 クラウドは俺の手を取って、無理矢理立ち上がらせると、手をひいて歩き始めた。俺はその後ろをついて行かざるを得ない。
 クラウドはリビングを出ると、ゆっくりと階段を上り始めて、結局、寝室まで俺を引きずってきた。

「…クラウド?」
「はい、こっちに立って」

 俺はクラウドの言われるままに、ベッドの足下のところに立たされる。クラウドは俺の真正面に立ち、背中側にベッドがある状態だ。

「…で?」
「せっかちだな」

 クラウドは軽く笑ったかと思うと、急に俺に抱きついてきた。

「えーっと、いつもお仕事お疲れ様。それから、色々ありがとう。感謝してます」
「…い、いや…、俺は特に…」

 何かをしてやってる、という意識は全くない。仕事に行くのもそれが普通のことだし(嫌な奴に会うこともあるが)、子供達と遊ぶことも楽しいからやってることだ。クラウドのことに至っては、クラウドのためにとか考えるよりも早く、身体が動く。
「…そう言うと思ったよ。でも、感謝してるんだよ、ホントに」

 クラウドは俺との距離を少し開けると、俺を見上げてにっこり微笑む。
 そんな笑顔も見慣れてるはずなのに、鼓動が跳ねて、どうにも息苦しくなってきた。

「だからね、今日はセフィロスの好きにしていいよ」

 好きにしていい? え? 俺の?
 クラウドの言葉が頭の中で何度もリフレインしている。
 聞き間違いか? 俺の脳が都合良く解釈したとか?
 クラウドはじっと俺の顔を見つめているが、瞳が徐々に潤んできている。

「…セフィロス? これじゃダメか…?」
「…とんでもない!」

 俺はクラウドの肩を掴んで、そのままベッドに押し倒した。
 きっと、これを狙っていて、俺をこの場所に立たせたはずだ。
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