父の日
父の日

「…ありがとう、お父さんもクレフのことが大好きだぞ」
「ありがとう、お父さん!」

 ぎゅーっと、クレフが抱きついてきた。それは嬉しいんだが、目隠しされて、前が見えなくなっている。

「クレフ、前が見えないから、手を離してくれ」
「ごめんなさーい! あ、もう、大きな木のそばだよ。折り返しだね」
「そうだな、部屋に戻ろうか」

 ん、とクレフは元気よく返事して、出発進行とまるで電車の車掌のようだ。
 学校の授業のこととか、他愛もない会話をしながら、部屋の前まで戻ってくると、俺はクレフを降ろしてやった。
 前にかがんだせいか、少し腰に痛みが走る。

「…っ」
「お父さん?」
「少し、腰がな…」

 腰をさすりながら言うと、クレフがそうだ、と目を輝かせて声を上げた。

「…何だ?」
「あの券だよ! 朝、渡したやつ!」
「ああ、あの券…」

 また、腰砕かれては堪らんのだが、使って、使って、とクレフがせがんでくる。
 仕方ない、使ってやるしかなさそうだ。
 俺はクレフと一緒にリビングに行くと、朝渡された封筒の中から、腰砕き券を一枚クレフに渡した。

「これだな?」
「うん、じゃあね、ソファーにうつ伏せで寝てね」
「ん? 寝るのか?」
「そうだよー!」

 クレフがにっこり笑うので、俺は従うしかなかった。クラウドの笑顔にそっくりっていうのが問題なんだ。
 ソファーにうつ伏せに横になると、クレフがじゃ、始めまーす、と言って、俺の腰の上に乗ってきた。

「どの辺がいいですかー?」

 クレフは俺の腰の上で足踏みをしている。
 腰のマッサージをしてくれるようだ。

「もうちょっと下だな…」
「はーい。この辺でいいですかー?」
「ああ、その辺」
「では、ふみふみしまーす! ♪ふみふみー」

 クレフはふみふみ、ふみふみ、と何だかよくわからない歌を歌いながら、俺の腰の上で足踏みを繰り返している。
 何となく腰も解れてきて、心地よくなって来た俺は、段々意識が遠ざかっていった。



 ふと、目を開けると、外はすっかり暗くなっていた。
 ソファーでうつぶせのまま眠ってしまったことに気づいて、ゆっくりと身体を起こす。
 俺の上で、ふみふみ、と歌っていたクレフの姿もなければ、カインやクラウドの姿もない。

「…寝過ぎた…ってことか…」

 テーブルの上に置きっぱなしの携帯で時間を確認する。

「…とっくに晩飯も終わった時間だな」

 眠気覚ましに、と煙草に手を伸ばそうとしたところで、セフィロス、と声がかかった。
 煙草を掴むのを止めて、視線をリビングの入り口に向けると、シャワーを浴びてきたのか、バスローブ姿のクラウドが立っていた。

「お腹、空いてない?」
「…いや…、大丈夫だ」

 もともと食欲など沸かない方だし、どちらかと言えば、酒とつまみがあれば、問題はない。
 ただ、俺の分まで晩飯の準備をされていたのなら、食べた方がいいか、とは思う。明日でも大丈夫なら、明日食べるんだが…。

「生ものはなかったから、明日でも平気だよ。明日食べなよ」

 俺の思いを汲み取るかのように、クラウドは返事をすると、俺の右側に腰を下ろして、ぴったりひっついてきた。

「…どうした?」
「別に。子供達と楽しそうだったな」
「ん? 昼間のことか?」

 そう、とだけ答えると、クラウドはそのまま黙ってしまった。
BACK