父の日
父の日

「ちょっと待て。もう少し高くしてやる」

 俺はカインを両脇を抱えると、肩車を止めて、高い高いをするように腕を伸ばした。
 これで、肩車の時よりも高いところに手が届くはずだ。

「うん、取れたよ!」
「そうか。じゃ、もう、下ろしてやろう」

 ゆっくり地面に下ろしてやる途中で、だめだよ、とカインが制してきた。

「やだ、もう少し肩車して」

 珍しい。
 基本的にお母さん大好きで、俺とはあんまり会話もしないような奴だったのに。

「お安いご用だ」

 もう一度、カインを抱え上げて、肩車してやる。
 カインは高いところからの景色がお気に召したのか、あんな遠くまで見える、とか、地面が遠くに感じる、とかいつになくはしゃいでいるようだ。妙に冷めて、落ち着いていて、子供らしくないと心配していたが、そうでもないらしい。

「あのね、お父さん…」
「どうかしたのか?」
「僕、別にお父さんのこと、嫌いじゃないよ…」
「え?」

 思わぬ告白に俺は自分自身の耳を疑った。
 嫌いと言われたことはなかったが、嫌いなんだろうな、と思っていたからだ。
 何せ、カインの大好きなお母さんを俺は自分のもの(もちろん、子供達の大事なお母さんではあるが、それ以前に俺のものだと認識している)として扱っているから、そこは気に入らないだろうな、と感じていた。
 だから、嫌いじゃないと言う言葉は俺に取っては、衝撃的だった。

「カイン…、俺は…」
「わー、お兄ちゃん、ずるーい! 肩車してもらってる!」

 いきなりクレフの声がしたので、俺はカインに何も言えなくなってしまった。

「…お父さん、ありがと。クレフも肩車してあげて」

 カインは降ろして、と小さな声で言った。
 ゆっくりと降ろしてやると、何も言わずに、リビングに戻ってしまった。

「お父さん?」
「あ、ああ。クレフも肩車だったな」

 クレフの身体を抱えようとして、腰を少しかがめたところで、鈍い痛みが腰に走った。
 さっき、カインからドロップキックを食らったところだろう。

「どうしたの?」

 心配そうに見上げてくるクレフの頭を軽く撫でてから、高く抱え上げて、肩車をしてやった。
 わ、たかい、たかーい、とクレフは大はしゃぎだ。

「どうする? 庭を歩けばいいのか?」
「えーっとね、あの先の大きな木まで行って、そっから、戻ってくるの!」
「わかった。じゃあ、出発だ」

 内心、庭一周なんてことを言われたらどうしようかと思っていた。
 庭とはいうものの、家の前にあるだだっ広い土地を勝手にそう呼んでいるだけで、別に庭として手入れなどは一切していない。
 そのだだっ広い土地を一周するとなると、大変な時間を要する。

「すごいね、お父さん、こんなに高いところから見てるんだ-!」
「んー? 今はクレフの方が高いけどな」

 俺より頭一つ分以上は上だから、2mは優に超える高さから見下ろしていることになる。
 滅多にそんな高さから見下ろすことはないだろうから、興奮気味になるのもわからないでもない。
 足をバタバタさせたりして、辺りを見渡している。

「お父さん、すごいねぇ! だから、お母さんもお父さんが好きなんだね!」
「はぁ?」

 思わず、拍子抜けした声を出してしまった。
 つまり、俺が背が高いのが凄くて、それゆえにクラウドは俺の事が好きだと?
 そういう理解でいいのか?

「お父さんはすごいんだよ、っていつも言ってる。僕もそう思う」

 それは背が高いことだけ、ではないと思いたい。
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