父の日
父の日

 朝食を食べ終え、リビングのソファーで新聞を読んでいると、お父さん、と子供たちの声がした。
 新聞から目を離し、子供たちに目をやると、クレフがにっこり笑って、封筒を差し出してきた。

「どうした?」
「あのね、えーっとね、うーん…」

 クレフは首を傾けて困っているが、俺も困ってしまう。

「父の日」
「そう、父の日だよ、父の日!」

 カインの助け舟に思いっきり乗っかって、クレフはさらに笑顔を見せる。
 クラウドの小さい頃もこんな感じだったのだろうか。
 それほどまでに、クラウドにそっくりだ。

「一番大事なこと忘れるなよ」

 カインはわざとらしく肩をすくめた。
 クレフの双子の兄で、どういうわけだか、カインは俺にそっくりだ。
 銀色のストレートの髪、少し世間を冷めた目で見ていて、俺が驚くほどに頭が切れる。
 性格はまるで正反対の双子だけれど、カインはクレフが可愛くてしかたないらしい。

「ごめん、お兄ちゃん。でね、父の日だからね、お母さんとお兄ちゃんと僕からだよ」

 母の日は盛大にするけれども、父の日なんてものはないと思っていたから、意外だった。

「ああ…、ありがとう…」
「ちゃんと、使ってね」

 そう言うと、クレフはお母さーん、と言いながら、リビングから出て行ってしまった。

「予想外って顔してる」

 残ったカインが、俺と目を合わせて、小さく笑う。

「そうか?」
「そうだよ。ま、今まで何もしてこなかったもんね。ちゃんと、それ使って、父の日を堪能して」

 それだけ言うと、カインもリビングから出て行った。
 ソファーにちゃんと座り直して、受け取った封筒の中身を確認する。
 中には何やら紙が数枚入っているようで、そのうち、一番上の紙を抜いてみた。
 目に飛び込んできた文字に、俺は声も出せず、そっと、そのまま封筒に戻して、テーブルの上に置いた。
 大きく天井を仰いで、目にした文字を思い浮かべる。
 見間違っていたかと思ったけれど、間違いではない。
 その紙には確かに、「腰砕き券」と書かれてあった。



 もやもやとしたまま昼食を食べ終わり、リビングのソファーで、テーブルに置かれた封筒を見つめる。
 父の日を堪能しろって言われたし、堪能したいところではあったけれど、何せ、紙に書かれていた文字が俺を躊躇わせる。

「ねぇ、お父さん、それ、使わないの?」
「…え、あ、これな…」

 カインに言われて、テーブルの封筒を手に取った。
 喜んで使えるようなものならよかったんだが、俺に対する嫌がらせとしか思えない内容だ。

「有効期限、今日までだからね」

 今日使わないでいよう、という選択肢は消されたわけだ。
 使わないと子供達もクラウドも悲しむんだろうし、使ってやるべきだろうか…。
 俺は封筒から紙を一枚取り出して、じっくりと眺めた。
 物理攻撃なのかどうなのかはわからないが、合計三回腰砕きにあうと考えたら、使いづらい。
 でも、全部が全部とも限らないのか…。

「じゃあ、これを使うとしよう」

 そう言って、カインに腰砕き券を一枚渡すと、承りました、小さく笑う。
 どうされるのだろう、と次の言葉や行動を待ってみたが、カインはどういうわけだか、俺の隣に座って、本を読み始めた。

「…カイン…?」
「この券を実行するタイミングは僕が決めるから、お父さんは気にしないで、普通にしててくれていいよ」
「…いや、そうは言っても…」

 本当に物理攻撃されるなら、避けることはしないにしても、身構えておきたいんだが、それが許されないということなんだろうか。
 カインは本から俺に視線を移して、笑顔を見せる。

「後のお楽しみ、ということで」

 お楽しみにできるようなことならそれでもいいが、お楽しみにするよりは、早く終わらせたい。
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