魅惑のAngel(3)
魅惑のAngel

 バン、と大きな音が響く。クラウドは思い切り机を叩いて、俺の言い分を否定したが、すぐに腕組みをして悩み始めた。

「…いや、そういうことかもしれない…。うーん…」

 一人で悩まれていても、俺にはさっぱりわからない。
 俺がいるかいらないかどうかは、俺が見て決めるものなんじゃないだろうか。

「…なぁ、クラウド。いったん、俺にくれないか? いるかいらないかはそれからの話だろう?」
「…わかった。じゃあ、先に言い訳させてくれ」
「言い訳?」

 言い訳しておかなければならないような品物(物かどうかもわからないが)なのだろうか。

「一応さ、色々考えてみたんだよ。セフィロスは欲しい物がないって言ってたけど、やっぱり、何かないとって思って。俺の気持ちを伝える手段の一つでもあるし。だから、色々リサーチしたんだけど、いいのがなくて。ほとんどのものは今までにあげちゃってるしさ。で、バレンタインと言えばってことで、これにしました!」

 差し出されたのは淡いピンク色の地にハートのマークがちりばめられた包装紙に赤いリボンがかけられた小さな箱だった。

「…チョコレート…というわけだな?」
「…あ、で、でも、でも、甘さ控えめなんだって!」

 クラウドの甘さ控えめ、イコール、俺の甘いになるんだが。普段から甘い物が得意だから、甘さ控えめはそれほど甘く感じないということなのだろうな。
 リボンをほどき、包装紙も外す。箱の中には小粒のチョコレートが綺麗に並んでいた。
 かすかに香ってくるのは洋酒独特のものだ。

「お酒を使ってるって言ってた。だから、大人の男性にぴったりとかなんか、そういう売り文句だった」
「…その売り文句に釣られて買ったのか?」
「悪い?」
「悪くはないが、クラウドだって大人の男性だろう?」
「俺にその表現はしっくりこないと思うけど? でも、それでも甘いんだよね? セフィロスには」
「…食べてみるが…、余っても、クラウドにはやれないじゃないか」
「えー……」

 あからさまにがっかりした顔を見せるクラウドに、俺は小さく首を振った。

「クラウド、お前、最初っから残ったらもらうつもりで買ってきたな? 俺が酒の入ったものをクラウドにやると思ってるのか…って、おい、こら!」

 クラウドは素早く手を伸ばして、俺の持つ小箱の中から、チョコレートを一粒摘まむと、ぽいっと口の中に放り込んでしまった。
 俺の方を見て、にっこり笑いながら、チョコレートを味わっている。
 顔が蕩けそうなのは美味しいからなのか、もう、酒に酔っているからなのか。
 様子を見ていると、クラウドの瞼が半分ぐらい閉じ始めた。蕩けているというよりは、目が据わっている状態だ。
 これは、やばいパターンか…。
 クラウドは酒に酔うと、いろんなタイプの性格に変化する。やたらと甘えてくる場合もあれば、妙に色っぽくなって、ヤラシイことを言ってきて誘ってくる場合もある。やたら陽気になることもあれば、いきなり黙り込んで地蔵化することもある。
 そんな色んなパターンの中でも一番やばいのは、説教モードに入った時なんだが…。

「おい、セヒロス! そこに座れぇ……」

 やっぱりか!
 飲み屋でくだをまく疲れたおじさんのように、延々と説教されるのは避けたかったのだが、もう、回避不可能だな。
 途中で寝たら、怒るんだろうか…。
 すでに隣に座ってることは言わずに、姿勢を正してみた。

「…あのなぁ、セフィロス、俺はもう大人なんだ。お酒ぐらい飲んでも問題はない!」

 俺の耳で変換した結果、こういうことを言っているらしい。
 クラウドのろれつは回らなくなっていて、普通に聞き取るのも辛い。

「…すいません…」

 こういう時は謝るに限る。反論すると、余計に長引く。
 たとえ、問題ないと言っているそばから、問題あったとしても。

「それになぁ…、お仕事とか、頼まれたことを何でもかんでもいやー、とか言うのはよくないぞっ!」
「…そうですねぇ」

 とはいえ、嫌なものは嫌だとはっきり言っておかないと、何でも押しつけてくるやつがいるのだ。主に社長だが。

「えーっと、それからぁ…」

 クラウドは首を傾げて、次の言葉を探しているようだ。
 まだ、俺に言いたいことがあったのか。
「自分の都合で、仕掛けてくるのもよくないぞぉ。俺がいつもその気だと思ったら、大間違いだぞっ!」

 本気で抵抗したのならやめてやるぐらいに俺は冷静だし、余裕がないわけじゃない。
 そのまま流されてしまうのは、どこの誰なんだ、と言ってやりたい。
 この状況での反論は泥沼にはまるので、心の奥にしまっておく。

「それからなぁ…、腹立つぐらい、美形すぎる!」
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