チョコと天秤 (10)
チョコと天秤



 ◇◆◇ 


 ん…、とクラウドは俺の横で寝返りを打ち、俺と向かい合せになった。朝の光が差し込んできて、もう、部屋の中は明るい。その明るさに目が覚めかかっているのだろう。

「…もう、起きる…?」

 クラウドは目を擦りながら、尋ねてきた。

「いや…、まだ、眠いんだろう?」

 クラウドは俺の腕枕で寝ているから、俺が起きるとなると、体勢を変えなくてはならなくなる。そうなると、クラウドははっきりと目が覚めてしまうだろう。
 もう少し、眠らせておいてやりたい。

「…セフィロスが起きるなら、起きるよ」
「いや、まだ起きるつもりはない。俺に気を遣わなくていい」
「…気は遣ってない。俺がそうしたいだけ」

 俺はクラウドの身体を抱き寄せて、頭を撫でた。クラウドは子犬がじゃれつくように、俺の胸に頭を擦りつけてくる。

「でも、俺はまだ起きるつもりはないんだ。だから、寝るといい…」
「…うーん、でも、もう、あんまり眠くはないんだよなぁ…」
「じゃあ、起きるか?」
「…もうちょっと、こうしていたい…」

 クラウドは俺にぎゅっと引っ付いてきた。俺も別に無理に起きる必要はないし、こうやってクラウドと微睡んでいられるのは幸せなことこの上ない。
 俺はクラウドの背中に指を滑らせながら、昨日のことを思い出していた。

「そう言えばな、クラウド。そもそも、わかってないことがあるんだが?」
「何?」
「どうして、俺は追い出されてたんだ?」
「あー、それは……」

 クラウドはうーん、と何だかバツが悪そうに頭を小さく掻いた。

「…セフィロスに受け取ってもらうわけにいかなかったからな」
「え? 昨日、受け取ってるが…?」

 クラウドはもうっ、といら立ちを隠さずに呟いて、俺の胸を叩いてきた。こういう些細な動作が可愛く見えるのはきっと俺だけではないはずだ。

「そういう意味じゃない。あのワイン、配達しかなくてさ。セフィロスは仕事だろうし、俺も仕事あるけど、セフィロスが帰ってくるまでには終わるから、大丈夫って思ってたんだよなぁ」
「…つまり、俺が休みでお前が受け取るより先に、俺が受け取ってはまずかったわけだな?」
「そうだよ。バレンタインのプレゼントだから…。俺からちゃんと渡さないと意味がないだろ?」
「それなら、仕方ないな…」
「ごめん、怒ってた…?」

 両手を合わせて、上目づかいでクラウドは俺の顔色を窺ってくる。しゅんとした表情が可哀想に思えるのと、可愛く見えるのとで、一気に、怒る気などそがれてしまう。困ったものだ。

「少しだけな。でも、もういいさ。クラウドが俺のためにやってくれたことだってわかったからな。俺が予定外の休みになったのも問題だったんだろう?」
「…まあ、うん。予定が狂っちゃったから、無理やり追い出しちゃったんだ。俺からちゃんと俺の想いを込めて渡したかったんだよ…」
「だから、もう、いい。ありがとう、クラウド」
「ごめんな、対処が子供ぽくて」
「そういうクラウドも可愛くて好きだ」
「…子供っぽいを否定してくれよ…」

 クラウドは俺の肩に額をこつん、と当ててきた。そんなクラウドの頭を撫でて、悪かった、と謝ったが、機嫌を損ねたようで、頭を上げてはくれない。何度か名前を呼んでみたが、一向に反応なし。

「クラウド、大事なことを言い忘れていた」
「大事なこと?」

 クラウドは気になったのか、ゆっくりと顔を上げた。その後頭部を掴んで、いきなり唇を塞いでやる。

「…っ、んーっ!」

 口の中を丁寧に嬲ってから、解放してやると、クラウドの口から甘い吐息が漏れた。

「…セフィロス…、何だよ、一体…」
「そういう色っぽいところも好きだ。クラウドの全部が好きだ」

 そう伝えると、クラウドは耳まで一気に赤くして、バカ、と俺の胸に顔を埋めて、頭を振った。
 それから、聞きとるのが辛いほど小さな声で、

「セフィロスの全部が好きだよ!」

とクラウドは呟いた。



 もう一つ言い忘れていたことを思い出した俺は、チョコレートの箱と共に伝えると、どうして、それを早く言わないんだよ、神羅のチョコだなんて、大変貴重なんだぞ、と凄い剣幕で怒られて、説教されてしまった。


 俺とチョコレートとの天秤では俺が間違いなく負けということらしい。


END
お付き合いありがとうございました!
バレンタインネタを久しぶりに書いたのはよかったんですが、思ったより難産でした…。
少しでも皆様にキュン、としていただければ、幸いでございます。
次はホワイトデーに向けてネタを仕込みます!
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