チョコと天秤 (2)
チョコと天秤

「巷はバレンタインで浮き足立っているかもしれないが、自分まで浮かれる必要はないだろうに……」
「セフィロス、休みなのか?」
「14日のことなら、休みだが……」
「マ、マジかよー!」

 クラウドは頭を抱えて、さらに体を丸めている。

「…俺は家にいないし、そうなると……、…あー、うん、きっと、そうなるよなぁ…、ああ、もうっ!」

 一人でぶつぶつ呟く文句の内容からして、俺が家にいるのがどうやらまずいらしい。俺も好きで休みになっているわけではない。文句なら社長に直接言ってもらいたいところだ。

「…15日も休みにしてもらって、俺は少し旅にでも出てくるとするか…」
「それはダメ!」

 いきなり体を起こし、俺の腕を掴んでクラウドは眉間に皺を寄せている。

「家にいるとまずいんだろう?」
「まずい……、いや、まずいというか……、ああっ! でも、旅行はダメだ!」
「…14日だけ出かけてくればいいのか?」
「出かけてもいいけど、遅く帰ってくるのはダメだ、いいな、ダメだぞ!」

 そう言い放ってから、クラウドはまた横になって、俺に背を向けて、あぁ、とか、うー、とか唸ってる。

「…よくわからんやつだな…」

 俺も横になって、後ろからクラウドを抱きしめる。

「な、何だよ! 急に」

 じたばたもがいて、俺の拘束を解こうとするクラウドを押さえ込むように、腕に力を入れる。

「別に、何も。こうしたいだけだ」
「へ、変なやつ!」
「お前の方が変だと思うがな」
「あー、もう、耳元で話すなって! 眠れないだろう!」

 クラウドは頭を振って、俺の声が届くのを防いでいるようだった。そんなことをされると余計に声を聞かせたくなる。

「無視して眠ればいい」
「出来たら苦労しないってば!」

 俺の腕を無理やり緩めると、身体の向きを変えて、俺と向かいあった。

「寝ないのか?」
「誰のせいだ!」

 そう言って、クラウドは俺に抱きついてくる。そんなクラウドの頭を撫でながら、責任取ろうか、と囁くと、クラウドの肩がぴくんと跳ねた。セフィロス…と小さく呟くクラウドの息が首筋にかかり、体中の血がふつふつと騒ぎ始める。

「クラウド…」

 クラウドは俺に返事する代わりに、俺との距離と取ってから、首を少し上に向けた。俺を見る瞳は潤んでいて、艶やかな口元からは甘い吐息が零れそうだ。
 頬に手を伸ばすと、クラウドは静かに目を閉じる。誘うような唇に俺は食らいつくように唇を重ねた。クラウドの方から絡めてきた舌を逆に絡め取り、口中を貪りつくすようなキスを交わしながら、クラウドのバスローブのベルトを解いた。


 ◇◆◇ 


「じゃぁ、出かけてくるから!」
「ああ。俺は夕方までに帰ってくればいいんだな?」
「うーん、夕方というよりは、夕飯ぐらいかな。19時過ぎたら帰ってきて」
「細かいな…。それ以前に帰ってきたらどうなるんだ?」
「…喧嘩で済めばいいよね」

 クラウドの目は座っている。それほどクラウドにとって時間が重要だということか。

「わかった。その時間は守ることにしよう」
「よろしく! 行ってきまーす」

 クラウドは玄関の扉を音を立てて閉めて、出て行った。
 今日は14日だから、配達が最も忙しい日となるのだろう。

「…さて、俺も出かけよう…」

 コートを羽織り、札入れと携帯電話をポケットに突っ込んで、俺も家を後にした。
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