チョコと天秤 (7)
チョコと天秤

「これ!」

 そう言って、クラウドが差し出してきたので、わけがわからないまま受け取った。箱の側面を読んでみると、ワインだということが分かった。しかも、何だか古そうであるし、限定品のようであった。

「これは?」
「えーっと、バレンタインのプレゼントなんだけど…」
「では、ありがたく…」

 俺はワインの箱を開けようと、蓋に手をかけた。その手をクラウドが押さえつけてきて、蓋を開けさせてくれない。

「どうした?」
「…ごめん…」
「何が?」
「これしかなくて…。セフィロス、甘い物ダメだから、チョコレートは渡せないし、他にいいものって考えたんだけどさ、思いつかなくて…」

 クラウドは俺の手の上に重ねた、自分の手を見つめている。俺はクラウドの手をどけさせて、ワインの箱をテーブルの上に置いた。

「クラウド、お前はこれを一生懸命考えて、選んでくれたわけだろう? 俺はその思いだけで十分だ。だから、何も気にすることはない」
「でも、セフィロスみたいに色んなもの用意してなくて…」

 クラウドの視線は一瞬俺に向いたが、徐々に下りていって、結局、足元を見つめている。

「俺には不要だな」

 俺はクラウドの腕を掴んで、引き寄せた。バランスを崩したクラウドを抱きとめるようにして、ソファーに座らせる。

「セフィロス!」

 腕の中で暴れるクラウドを落ち着かせるように、ぎゅっと抱きしめてやると、大人しくなった。案外素直だ。

「クラウドがくれるものなら、どんなものでも嬉しい。たった一つでも、俺のことを思って考えて買ってくれたものだ。クラウドの思いが詰まってるのを俺はわかってる」
「…セフィロス…、俺は、どうすればいいんだろう?」
「クラウド?」

 俺の背中に腕を回して、クラウドはじっとしている。何か考えているということはわかったので、あやすように背中をさすってやった。
 暫くすると、クラウドはゆっくりと顔を上げて、俺の顔をじっと見てきた。

「…なぁ、セフィロス。俺はどうすれば、セフィロスほどの思いをセフィロスに返せるんだろう?」

 俺ほどの思い? それは俺のクラウドに対する思いを指しているのだろうか?

「俺は俺なりにセフィロスに伝えてきたんだけど、セフィロスにもらってる分、返せてない気がするんだよなぁ。これ以上どうすればいい?」
「…そうだな…」

 ふと、社長の言葉がよぎる。
 そうだ、俺たちには言葉があって、身体があるんだ。
 俺はクラウドの頬に手を添えて、鼻先が触れるほど顔を近づけた。

「セフィロス…?」
「聞かせてくれ」
「…な…にを…?」

 クラウドの声が震えてる。俺が顔を近づけるのを嫌がってるのだ。クラウドの言い分は俺の顔を直視できないということらしい。今も、現に目を伏せたままだ。

「クラウドの想い」
「…想い…って? セフィロスをどう思ってるかってこと…?」
「そう…。どう思ってる…?」

 額や瞼に軽くキスを落としつつ尋ねると、クラウドはそんなの、と小さく呟いた。

「そんなの?」
「…そ、そんなの……、言わなくてもわかってるだろ!」
「クラウドの口から聞かないと、不安になる…」
「……好き…に決まってる…」

 断言されて、俺は顔がにやけそうになったが、まだ目を伏せたままのクラウドの顔が見たくて、名前を呼ぶ。
 いつものくせだろう。クラウドは反射的に顔を上げた。潤んだ瞳と、赤く染まった頬、艶やかな唇、全てが俺を誘っているように思えてしまう。可愛さと艶っぽさの両面を持つことを俺だけが知っている。そのクラウドにこの俺だけが触れられる。こんな特権、他の誰も持っていない。
 それなのに、俺は不安になる。何度抱けば、不安を消せるのだろう、自信を持てるのだろう。
 一瞬でも、不安を消したくて、クラウドの顎を掴むようにして固定すると、食らいつくように唇を塞いだ。
 いきなりの行為は抵抗されることが多いのだが、今日はすんなりと舌を受け入れた。クラウドの方から俺の首に腕を絡ませて、誘うように舌を動かしてくる。その舌を絡め取って、さらに口づけを深くしていく。
 時折、クラウドが漏らす甘い吐息が俺の理性を剥がしていく。理性に包まれていた劣情が現れてきて、俺は自分に歯止めをかけられなくなる。

「…クラウド…っ!」

 前に体重をかけて、クラウドをソファーに押し倒す。
 せっかちだな、と小さく笑ったクラウドは自らセーターを脱ぎ始めた。インナーのシャツも一緒に脱いでしまったらしい。白いなめらかな陶器のような肌が目に飛び込んでくる。

「…寒いだろ?」
「…大丈夫。すぐに暑くなる…だろ?」
「そうだな」

 俺もセーターやらを脱ぎ捨て、上半身裸になってクラウドに覆いかぶさると、クラウドの指先が俺の鎖骨に触れた。

「クラウド?」
「惚れ惚れする身体だよな…。ゾクゾクするよ…」

 唾を飲みこんだのか、少し動いた喉に吸い付くようにキスを落とすと、クラウドは小さく声を漏らす。

「お前の方がゾクゾクする身体をしてるんだがな…」
「…そう…? それならもっとゾクゾクして、余裕なくしてほしいところだけどな」

 くすり、と口元を小さくゆがませると、俺の背中に腕を回してきて、俺の耳元で早く、と催促してくる。
 とっくに俺は貪りつくす気でいたんだがな。
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