チョコと天秤 (6)
チョコと天秤




 紙袋を下げて、玄関の扉を開けた途端、クラウドがリビングから飛び出してきた。

「おかえり!」
「ただいま…」

 クラウドは至って普通でいつもと変わらない。配達の方の仕事が大変そうだったみたいだが、顔に疲れの色は見えない。

「どうしたんだ? 紙袋たくさん下げて」
「これか。リビングで説明する」

 リビングまで移動して、紙袋をテーブルの上に並べてから、コートを脱ぎ、ソファーに座る。

「セフィロス?」
「まあ、クラウドも座れ。疲れてるだろう?」
「俺は大丈夫だよ。それより、もうすぐ夕飯だし、今日は腕によりをかけて作ろうと思ってるんだ」

 笑顔を見せて、クラウドはその場から立ち去ろうとしたので、その腕をとっさに掴む。

「…セフィロス…」
「わかってるんだろう? 俺が何を言おうとしているか…」

 クラウドは俺の横に無言で座って、肩を竦めて小さくなった。普段は俺の反論も封じ込めるほどの強気の物言いをしたりするのに、今日はおとなしい。

「まあ、俺の話は後回しにしよう。あの紙袋は全部バレンタインの贈り物だ」
「贈り物?」
「そう、俺からクラウドへ。一部、社長からのも含まれてるがな」
「え? ちょ、ちょっと待て! 間違ってる!」

 クラウドは俺の両肩をいきなり掴んできて、大きく揺さぶる。

「…お、落ち着けって…」
「間違ってるだろう! 何で、セフィロスからなんだよ!」
「俺が甘いものが苦手だから」
「はぁ? よくわからない理由だな!」
「バレンタインデーもホワイトデーも甘いものを贈るだろう? 俺は甘いものが苦手なんだから、贈られても困る。だから、贈ることにした」

 クラウドははぁ、と息を漏らして、項垂れた。

「…わかってるよ、セフィロスが甘いものが苦手なことぐらいは。だけど、バレンタインはどうあっても、俺から贈るのが筋だと思う…」
「筋なんてものは気にしないし、俺たちを周りに当てはめるのは難しいことだろう? それに、言われてたんじゃなかったのか?」
「誰に? 何を?」

と、クラウドは首を傾けている。

「社長に。気を遣うな、と」
「…ど、どうして…、それを……?」

 クラウドの目が泳いでいる。クラウドは必死にどうして自分だとばれたのかを考えているようだった。伝言を頼んだのはクラウド自身だったと思っていたが、もしかして…。
 俺は軽く笑ってから、クラウドの頭を撫でた。

「お願いごとをする時は人を選んだ方がいいようだな」
「…社長…、全部ばらしたのか…?」
「何を持って全部というのかはわからんが、俺が暇にならないように連れまわすようにお願いしたのは、クラウドなんだろう?」

 クラウドはごめん、と小さく言って俯いた。

「いや、謝らなくていい。そのおかげで、クラウドに贈り物ができる。俺としては助かったと思ってる」
「…でも、俺、別に贈り物が欲しかったわけじゃなくて…」
「俺が拗ねてないかどうか気にしてたと社長は言ってたが…。本当は俺が帰ってこないように監視が必要だった?」
「か、監視なんかじゃないよ!」

 俺の手を振りはらって、勢いよく顔を上げると、クラウドは俺を睨みつけてきた。だが、その目は少し潤んでいるようだ。

「…監視なんかしてない…。セフィロスは約束破らないってわかってる。俺は今日はセフィロスに無茶ばっかり言ってたから、もしかしたら、拗ねてるかなぁって。それで、お願いしたんだよ、気を紛らわしてあげて欲しいって…」
「悪かった…。少し誤解があったようだ。でも、どうして俺が拗ねてると?」
「何となく、かな。これでも俺は他の人よりセフィロスのことをわかってるつもりだからな」

 クラウドは俺の胸の辺りに、額をこつんとぶつけてきた。そんなクラウドの身体を抱き寄せて、頭を撫でてやる。

「クラウド」
「んー?」
「ありがとう」
「何で、お礼?」
「俺のことをわかってくれてるから。その思いだけで十分だ…」
「……セフィ……」

 クラウドは俺の名前を呟いてから、俺の身体から離れた。んー、と首を傾げて、何か考えているようだ。

「わぁ! ちょっと待って!」

 クラウドは急に叫んだかと思うと、俺の身体を突き飛ばして、キッチンへと走っていた。すぐに、クラウドは戻ってきたが、何か大きな箱を抱えていた。
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